登録商標における「専用権」
商標法では、「登録商標」の登録者のみが享受できる権利を付与しています。登録商標の権利は、具体的にどのような内容で、その権利範囲はどの程度まで及ぶのでしょうか?以前、商標がおよぼす効力としての「専用権」と「禁止権」について説明しましたが、今回は商標法で規定された登録商標の権利内容と権利範囲について以下に解説してみましょう。
商標法が規定する2種類の権利
商標法が規定する登録商標の権利には「専用権」と「禁止権」の2種類があります。まず「専用権」ですが、これは通常「独占使用権」とも呼称されています。字義どおり、商標の登録者がその商標を「独占して使用できる権利」です。登録商標である限り、その商標におけるすべての権利を登録者に与えるというもので、登録者以外の個人や法人が権利者に無断でその商標を使用すると「権利侵害」となり、権利者に提訴され莫大な損害賠償を支払うことになる可能性があります。
「専用権」は、昔「王権」とも呼ばれていました。これは英語の"royalty"(ロイヤルティ)がもとになった単語です。権利者が第三者と自身の登録商標を使用する契約を結ぶ際、その対価を「ロイヤルティ」というのは一般にもよく知られています。商標権を有する権利が絶対的独占権であることから、権利者を「王様」にたとえているわけです。「権利者に無断で使用することは許されない」という商標法のきまりをこの単語はよく表しています。
登録商標における「禁止権」
この「専用権」は登録商標と同一の商標のみに限定されています。しかし、それでは登録商標を少しだけ変えた商標が出回った場合はどうでしょうか?この場合には、確かに「同一」ではないので「専用権」の適用範囲外となります。しかしながら、同一でなくても、すでに登録済の商標と極めてよく似た商標が市場に出回るとなると、真似をされた企業などの権利者が不利益を被るだけでなく、一般消費者が混乱しそれがヒット商品であった場合には大きな社会問題ともなりかねません。
そこで、このような諸問題が発生しないように、商標法では「専用権」とは別に「禁止権」という規定が設定されています。「禁止権」とは、自分が権利を持つ登録商標に類似した商標について、その「類似商標」を使用することを禁止できる権利です。「類似商標」に関しては権利者自身も使用することができず、「独占して使用する権利」である「専用権」とは性格が異なるため、別個に設けられているというわけです。
それに「禁止権」がなければ、商標を真似された場合には「不正競争防止法」などの民事訴訟を起こすしか方法がなく、その際には提訴した側が類似による損害を証明しなければならず、時間的にも金銭的にも負担がかかってしまいます。登録商標に「禁止権」があることで、権利者は類似商標の使用差止がスムーズに行えるというわけです。
「類似商標」の規定
なお「類似商標」に関して、どの程度までを類似と判断するのか、特許庁では基本的な基準を以下の3種類に区分して設定しています。ここでは「ライオン」という商標の類似性について例示してみましょう。
- 外観類似・・・見た目が似ている場合→「ライオン」と「ライオソ」
- 呼称類似・・・発音が似ている場合→「ライオン」と「ダイオン」
- 観念類似・・・意味やイメージが似ている場合→「ライオン」と「獅子」
しかしながら、商標の類似性に関しては、当事者同士では主観が入ることと、第三者でも判断が別れる場合も多く、実際に訴訟問題に発展することがよくあり、そのたびに大きく報道されているほどです。ヒット商品の登録商標を真似した類似商標が出回るのは、その国の商道徳や基本的モラルに関する問題でもあります。すでにある商標を故意に似せる行為が倫理的にも許されないということが常識の社会でありたいものです。