「チバニアン」商標登録騒動の本質とは?
地質時代の呼称「チバニアン」が決定へ
2017年の終盤を飾る日本の明るい話題に「チバニアン」がありました。地球の歴史において「地質年代」と呼ばれる大昔の年代の呼称に日本が申請していた「チバニアン」が命名される見通しとなったのです。
関東の千葉県地域を由来とする呼称が国際的に用いられるとなると大変名誉なことで、千葉県民のみならず日本人にとっては大変喜ばしいニュースでもありました。ところが、この明るい話題に水を差すような事態が現在生じており、これが登録商標に関わる問題だという点が深刻さを増しています。
地質時代の呼称については、天候の変化や地殻変動そして地磁気の変化などによって地球の土台である地質が大きな変質をみせた各年代によって、その時代を象徴する呼称が命名されており、これらは「国際地質科学連合」の審査を通して決定されています。
今回は「新世代」の「第4紀更新世」の中間期にあたる約77万年~12万6千年前の年代をどう呼称するを決める国際審査でした。地球の磁気が南北逆転するという地質学上重要な年代でもあり、名称がどうなるか世界的に大きな注目を集めていました。
そして結果的に日本が申請していた「チバニアン」が1次審査でイタリアを破り、今後よほどのことがない限り正式決定される見通しとなったわけです。
「チバニアン」の商標登録でひと儲け?
「チバニアン」は千葉県市原市の地層が基準地とされ、ラテン語で「千葉時代」を意味します。千葉の地層には地磁気の南北逆転現象が明確にデータで証明されたことが決定の決め手になったともいわれています。
「チバニアン」がこの年代を示す正式名称となれば、地球46億年の歴史に日本の「千葉」の地名が刻まれることとなり、日本にとっては歴史的快挙ともいえるでしょう。ところが、このような一般人が注目する新しい言葉で話題となるたびに、その新単語を独占化して一儲けしようとする商魂たくましい人物が必ず出現するのが世の常というものです。
悲しいことに「チバニアン」もその例にもれず、今後半永久的に残る単語であるからこそ、この「チバニアン」をいち早く商標出願し、これを2017年3月に登録していた人物がいたのです。
出願人は市原市に住む個人で、商標区分は「貴金属」「キーホルダー」「玩具」「紙類」となっています。特に「紙類」が問題で、今後「チバニアン」という文字を入れた印刷物などが権利侵害となる可能性があり、これを不服として「チバニアン」の命名機関でもある大学共同利用機関法人の「情報・システム研究機構」が特許庁に異議申立を行いました。
そして特許庁は2017年11月に「チバニアン」商標登録について該当区分から「印刷物」を取り消すと発表したのです。これによって、公的研究機関が「チバニアン」の呼称を用いた印刷物を発行することへの支障がとりあえずなくなったといえます。
商標法と公共的名称との兼合い
商標法では「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」を認めないとする規定があり、すでに公的な名称ともなった「チバニアン」を一般大衆に流布される可能性の高い印刷物に対して一個人に商標の独占化を認めることはこの規定に抵触すると判断されたと推察されます。
商標を登録した人物がどのような業種を生業としているのか判然としませんが、「キーホルダー」や「玩具」を商標区分としていることから、おそらく「チバニアン」の名称をあしらった土産物やアクセサリー・グッズでひと稼ぎしようと目論んでいるのでしょう。
今後「チバニアン」が正式決定されれば今以上に地元は大いに盛り上がることが予想され、貴金属加工や玩具業者からも異議申立が出される可能性が考えられます。
今回の「チバニアン」騒動を契機にして、このような新しい公的名称の商標登録をどうすべきか、特許庁を筆頭とする行政機関は明確な方針を打ち出す必要があるといえるでしょう。