中国における冒認出願の問題とは
「冒認出願」とは何か
近年、経済発展が目覚ましい中国に関して「冒認出願」が国際問題になりつつあります。「冒認出願」とは一般に聞き慣れない単語ですが、「冒認」の本来の意味は「認証を冒(おか)す」すなわち他人が認証を受けるべきものを不法に横取りするという状況のことを指しています。ちなみに第三者になりすますことを「冒名(ぼうめい)」と呼びますが、いずれも日本ではすでに日常会話ではほとんど用いられることはなくなっている言葉です。
「冒認」という単語については、現在では法律用語として用いられており、主に特許や商標など工業所有権の分野において、本来権利を取得すべき者を出し抜いて第三者が先に権利を取得しようと特許庁に権利出願を行おうとする行為を「冒認出願」と呼称しています。したがって「冒認」という単語は、現在の日本では「無法出願」と同等の意味で使われているといってもよいでしょう。
続発する中国での権利トラブル
「冒認出願」といういわば専門用語が今の時点で顕在化しているのは、日本国内ではなく、隣国である中国でこの「冒認出願」が多発しており、少なくない日本企業が経済的な損失を被っているからです。
市場経済を導入した中国は、1990年代後半以降から「世界の工場」として広い土地と十数億人という人口を武器に積極的に外国企業との取引を進め、わずか十数年で米国に次ぐ世界第2位の経済大国となりました。しかしながら、欧米並みの倫理的経済観念が国民に根付いていない状態のままで、あまりにも経済発展のスピードが急速過ぎた故に、実にさまざまな問題を生じることとなったのです。
その代表的な問題が著作権や工業所有権をめぐるトラブルであり、音楽や映画などの模倣や海賊版の横行が経済成長と平行して拡散していったのです。そして深刻な国際問題となっているのが、他国が取得すべき特許や商標を中国企業が先に中国国内で出願して権利化してしまうという「冒認出願」が多発したことで、その被害企業の多くが日本企業であったことです。
日本では、人件費が安価な中国で製品を製造し、それを欧米で販売するというビジネスモデルが2000年代に確立しましたが、製品類の主な販売先は欧米各国でした。そして、中国国内で特許や商標の出願が遅れていた間隙を突いて中国企業が自国の特許庁に先に出願するという事態が続発したというのが経緯です。
特許・商標の「チャイナリスク」回避を
中国の企業がこれら「冒認出願」を中国特許庁に登録してしまっては、横取りされた日本企業は裁判所に調停を申し入れるか、あるいは登録に異議を申し立てて訴訟を起こすしか方法はありません。しかしながら、日本と中国では工業所有権の法的認識に大きなギャップがあり、中国で「冒認出願」を理由に権利の無効化を実現するのは至難の業といわれているのです。しかも、裁判となると大変な手間と費用がかかります。さらに、国内で権利を取得した中国企業がまだ日本企業が進出していない国相手に出願攻勢をかけるという事態も起きており、こうなると日本企業は二重の被害をこうむることとなるのです。
経済大国となったものの、共産党の一党独裁体制という世界でも類例のない中国の特異性がその原因であり、中国の企業モラルは厳しく指弾されるべきです。しかし一方では、中国を人件費節減のための便利な海外工場として利用し、肝心な知的財産権の保護についての認識が甘かった日本企業の危機管理体制の脆弱さも大いに反省すべきでしょう。
2015年後半には中国の株式市場が空前の大暴落を記録し「チャイナリスク」という言葉が日本でも叫ばれるようになりました。今後も中国を大きな取引として相手する企業にとっては、経済状況より以上に「冒認出願」という「もうひとつのチャイナリスク」が存在することを強く認識し、その対応策を早めに講じておく必要があることはいうまでもありません。
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