「手続上の瑕疵のある商標出願」についての現状
商標出願の「瑕疵」とは?
近年、商標にまつわる由々しき事態として「手続上の瑕疵のある商標出願」が数多く提出されているという問題が浮上しています。「瑕疵(かし)」とは「傷」を意味する単語で、一般にはあまり馴染みがない言葉ですが、法律用語としてはかなり頻繁に用いられています。
たとえば「瑕疵担保責任」という言葉は住宅などの売買契約で使われることが多いので耳にしたことがあるという人は少なくないでしょう。
しかしながら、高額な住宅の売買契約ならともかく、商標出願においてこの「瑕疵」という言葉は不釣り合いな気もします。それはともかく、出願されてほぼ半年以内には「手続上に瑕疵あり」とみなされて特許庁から出願を却下される商標出願が、近年異常ともいえるほど増加して、特許庁の通常業務に支障が出るほどに問題が深刻化しているのです。
「実体審査」の前の「方式審査」と「脱法行為」
出願された商標に関しては、特許と同様にそれが権利・独占化に値する内容かどうか、特許庁の審査官の内容の審査を受けます。これを「実体審査」と呼称されています。
そして、現実には出願された書類はすべて実体審査されるわけではなく、その前段階として出願書類に不備がないかどうかをチェックする書類の審査が実施されておあり、これを「方式審査」と呼んでいます。分かりやすく例えると、志望大学への入学試験が「実体審査」にあたり、受験前に受験願書のチェックを受けることが「方式審査」に相当するわけです。
特許庁では、商標出願にあたっては、その願書の記入方式について詳細な規定を設けており、この期待に合致しない出願に関しては、例外なく却下され実体審査に進まないことになっています。
近頃問題化している商標出願は、書類不備というよりも「出願手数料を納付していない出願」が、ある特定の人物から大量に出されているという事例です。「誰が何故何のためにそのようなことをするのか?」といぶかる向きも多いことでしょう。これは端的に言って「商標ブローカーによる脱法的迷惑行為」と断定して間違いないでしょう。
特許庁が「注意文」を公表する異例の事態に
つまり、自分(自社)のものではない他人の商標を、すでにある区分以外で大量に出願し、当事者を困惑させた上で「和解金」をせしめる、というやり方です。
当然ながら最初から商標登録するつもりなどなく、出願手数料も納付することは考えていません。ただ、相手に「大事な商標を奪われるかもしれない」という恐れを抱かせるために実際に特許庁に出願する、という手口のようです。
出願すること自体には制約がないため、このような反社会的な事件が起きてしまうのですが、「まさかこんな非常識なことはしないだろう」という「一般常識」の裏をかいた悪質といってよい行為とみなされても仕方ないでしょう。
事態を重く見た特許庁は、2016年5月に次のような通達分を公表しました。
「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」と第する警告文で、概略は「他人の商標を先取りすることを目的とする『手続上瑕疵ある出願』については、仮に出願手数料の納付があったとしても、これらが商標登録されることはありません」とはっきりと述べています。
被害に遭った人の中には、商標法に疎くブローカーから「出願公開公報」を見せられ、すでに商標登録されてしまったと勘違いし慌てて和解に応じる人も出てきているようです。この点についても特許庁は注意を喚起しています。
商標法では「出願人の業務に係る商品・役務について使用するものでない商標」や、他人の著名な商標の先取りとなるような出願や第三者の公益的なマーク」などは、登録商標にはならないと、明確に断じています。法の網の目をくぐるような反社会的ブローカー行為の根絶に向けて、さらなる法整備の充実を願いたいものです。