先使用権とはその2
次に先使用権が認められた場合に自分が使用できる範囲ですが、これは「現状の使用の範囲」に限られています。
例えばAさんが北海道で商標「イロハ」をパンに付して使用していたとします。ある程度商売が軌道に乗ったAさんは、商標「イロハ」を使ったパン屋の店舗を北海道外にも展開し、同時にパン屋に併設させて喫茶店事業も始めようと考えていました。ところがそんな時、Bさんが商標「イロハ」をパンと喫茶店の分野で商標登録をしてしまいました。BさんはAさんにパンの分野で「イロハ」を使うなという警告をしてきたので、Aさんは先使用権を主張し認められました。
この場合Aさんが商標「イロハ」を使用できる権利は現状、つまり「パン」の分野で「北海道内」の事業でのみに限られます。つまり、北海道外で展開する予定だったパン屋は、予定というだけで実際に店を出していたわけではないので、そこに商標「イロハ」は使えない事になります。
また喫茶店に関しても同様に、開店は予定していただけで実際に使用していたわけではないので先使用権の範囲外ということになります。なお、先使用権を主張し商標を使う場合であっても、商標権者からの要請があれば「出所混同防止表示」をしなくてはなりません。出所混同防止表示というのは上の例でいうなら「イロハ」の下に「この商品はBさんの『イロハ』とは関連がありません」等のようにAさんの「イロハ」とBさんの「イロハ」が混合されるのを防止するための表示です。
正直にいうとこの出所混同防止表示というのはあまり格好の良いものではありません。ただ正規の商標権者にとって先使用権というのは目障りなものに違いありませんから、出所混同防止表示は商標登録という作業を怠った先使用者(Aさん)に対するせめてもペナルティーという意味合いがあるように思われます。
このように先使用権は、それが認められるための条件が厳しく認められたとしても制約のある権利です。よく「先使用権を主張すれば何とかなる」という趣旨の話をする人がいますが、先使用権を主張するための手間や費用、先使用権が認められてからの制約を考えると、やはり重要な商標は自分で商標登録しておくことが肝心といえるでしょう。