輸出差止申立制度によって保護される商標権
深刻化する輸入品の知財トラブル
著作権(出版・映像・音楽などの分野)や工業所有権(特許・商標などの分野)の総称である知的財産権をめぐる係争については、どうしても国内の事件に目が行きがちです。しかしながら、グローバル社会が進む現代の世相を反映してか諸外国と日本との係争も最近では決して無視できないほどに急増しており、問題はかなり深刻化してきています。
知的財産(知財)商品に関する日本と諸外国とのトラブルについては、単に民間企業の業績に関わる問題だけでなく、日本企業が保有する知財商品類が外国企業に不当に模倣・剽窃されることによって市場の混乱や著しい消費者への不利益が生じ、これを国が放置することはやがて社会不安に直結する由々しき事態といっても決して過言ではありません。
経済新興国や発展途上国においては、知的財産権の遵法意識が根付いておらず国民の意識もまだ低いこともあって、日本企業の権利を侵害している商品が日本に輸入されるという事件もたびたび報道されてきています。世界の国々が同時に発展し諸国の国民が共に豊かになるはずのグローバル社会が掲げた理想の正反対のマイナス面が知財商品という予期せぬ形で表出してきているともいえるでしょう。
しかも、ひと目で分かる窃盗品などとは異なり、知財商品は商標などすぐには違法性の判断に迷うものが少なくないために特に厄介で、輸入後に係争となるパターンが少なくないのです。
違法な知財違反商品を水際で防ぐ
日本へ輸入されてくる外国商品の中で特にトラブルとなりやすいのが商標に関わる分野です。知財商品の中では、商標が比較的模倣が容易でしかも第三者には判別しにくいという特徴もあって、日本の企業の商標権を侵害しているという疑惑の輸入品をいかに防ぐかという点が大きな問題となっています。
この問題に対処するために設けられた法制度が「輸出差止申立制度」です。商標などの知財商品の権利者が権利侵害の恐れのある品の輸入を差止めるために、その旨を税関に申し立てることができる法律(関税法第69条)です。すなわち模倣品を輸入直前の水際で食い止めようという国の取り決めが「輸出差止申立制度」というわけです。
輸出差止申立制度の該当する知財商品の法的権利区分は工業所有権分野が「特許・実用新案・意匠・商標」で、その他は「著作権・著作隣接権・育成者権」となっており、「不正競争防止法」に抵触し権利侵害の恐れがあるものも含まれています。
「輸出差止申立制度」の概要
差止申立に関しては「差止申立書」に必要事項を記入の上、権利侵害相当とみなした資料を添付して税関に提出します。なお、輸入品が日本の複数の税関を通過する場合はそれぞれの税関に赴く必要はなく、一箇所のみでよいことになっています。
権利侵害の疑いのある輸入品は「侵害疑義物品」とされ、実際に侵害に相当するか否かを判定する「認定手続」が実施されます。全ての手続が完了し申立から決着までの期間は特別なケースを除き、通常約1ヵ月といわれています。
日本企業が、外国において自社商品の権利侵害の情報をキャッチした場合、知財担当者がすぐにやるべき事は、該当国での訴えとは別にその商品の日本への輸入を防止する行為に傾注せねばなりません。そのためには、税関への「差止申立」の手続様式とその手順を事前に熟知しておく必要があるでしょう。
さらに、認定手続きが長期化した場合、輸入品権利侵害の非該当品と認定された場合の損害相当分と保管手数料を合算した金額を供託金の支出が申立人に命じられることがあります。特に生鮮食料品に関しては例外なく供託金が必要となります。むろん権利侵害が認定されれば供託金は返金されますが、申立を行う際のリスクとして認識しておかねばなりません。