外国で商標権を獲得する方法と、
メリット・デメリット
商標権の有効範囲
商標権はある商標を独占排他的に使用できる権利であり、更新さえすれば半永久的に行使できる権利です。しかしここで勘違いしないで欲しいのは、商標権の効力は全世界に及ぶというものではなくあくまで日本国内限定で有効なものだという事です。
日本の商標権しかもっていない場合に、誰かが外国であなたの商標と同じ商標を使っていたとしても、あなたの商標権をその誰かに行使する事はできないのです。外国でも商標を使用したい、その権利を保護したいということであれば、その対象国の商標制度に基づいた手続きを行っていく必要があります。
国ごとに違う商標制度
日本での商標権の取得が商標法に基づいて行われるように、外国で商標権を取得する際にはその国のルールに応じて手続きを進めていくことになります。また、手続きを進めていく際には、「商標権」というものの考え方は国によって異なるということを理解しておく必要があります。
登録できる商標や権利行使の範囲が異なることはもちろんのこと、まだ商標権を含む知的財産権に関する法整備が進んでいない国もあるのです。外国で商標権を取得しようとするときは、まず、対象国では商標権をどのように取り扱っているかを確認していかなければいけないということです。
簡単な目安としては、工業所有権の保護に関するパリ条約に加盟している国については、程度の差はあれ、日本と似た仕組みの商標制度が整備されていますし、海外企業にも商標権取得の道が開かれています。この条約には、ほとんどの国が加盟していますが、民主化で話題になっているミャンマーのようにまだ未加盟となっている国もあります。このように外国の商標制度を一から調べていくのは時間と労力がかかりますので、自社だけで全てを進めようとするのではなく、実績とノウハウのある専門家に相談していくことをおすすめします。
外国で商標権を取得する方法
現在、外国で商標権を獲得するための手段は3つあります。
- 商標権を取得したい国に直接出願する方法
- マドリッド協定議定書に基づく国際出願
- EUTM出願
外国で商標権を取得する方法として最も基本的なのは、商標権を取得しようとする国の商標担当部署(日本で言う特許庁)に出願するものです。一般的に直接出願と呼ばれています。
また国によっては、条約などで手続きが合理化されていることがあります。様々な枠組みがありますが、その中でもマドリッド協定議定書に基づく手続き(マドプロ出願)、欧州連合商標制度に基づく手続き(EUTM出願)の二つの手続きは日本企業にとっても恩恵が大きいものと言えます。それぞれ、メリット・デメリットがありますので、自社に適した方法を選んでいくと良いでしょう。
直接出願
まず、商標権を取得したい国に直接出願する方法について説明します。
直接出願のメリット
直接出願の最大のメリットはスピーディに商標権を取得できることです。対象国の商標制度に基づいて手続きを行っていきますので、対象国内の企業と同じスピード感で商標権を取得していくことができます。また、日本国内で権利を取得していない商標についても出願できますので、海外向けのブランドなど、対象国だけで用いる商標の権利化に適しています。
直接出願のデメリット
デメリットとしてはあげられるのは、コストです。対象国ごとに代理人を通して手続きを行うことになりますので、商標権を取得しようとする国が多いと、その分代理人コストが増えていきます。また、取得した商標権の維持・管理も国ごとに行っていくことになりますので、国が多いと手続きに追われていくことになります。
逆に商標権を取得したい国が1~2カ国と少ない場合には、他の制度より費用が安く済む場合もあります。
また現地代理人を通じて法改正の情報や商標そのものについてアドバイスを受ける事ができます。(日本では何でもない言葉でも、現地では隠語として卑猥な意味に取られたり何かを差別する言葉として用いられたりする言葉があります。)
マドプロ出願
マドプロ出願とは、マドリッド協定議定書に基づいて国際的な枠組みで行う商標権の取得手続きです。日本を含め、マドリッド協定議定書を締約している国々の間で商標権をスムーズに進めることを目的にしたものであり、スイスに置かれている国際事務局を通じて、商標として保護できるか否かの審査を締結国に求めることができます。
マドプロ出願のメリット
マドプロ出願のメリットは、一度に複数の国に一括して商標出願できるという点です。
国ごとに直接出願するのと比べて、大幅に事務コストを減らすことができます。また、日本の特許庁を窓口にして手続きを進めることができるため、現地代理人に手続きを依頼する必要もなくなります。このため、現地代理人への依頼料なども節約することもできます。
マドプロ出願のデメリット
デメリットとしてはあげられるのは、マドプロ出願をするためには、その商標が日本で登録されているか特許庁に出願されている必要があるという点です。また、日本で登録・出願されている商標を基礎出願・基礎登録と呼びますが、マドプロ出願する商標は基礎出願や基礎登録との同一性を求められていますので、例えば、国ごとにデザインをアレンジした商標を登録したいといったときには利用が難しくなります。
EUTM出願
EUTM出願とは、欧州連合知的財産庁(European Union Intellectual Property Office)を通じて、EU加盟国全体をカバーする欧州連合商標を取得していくための手続きです。一見すると、マドプロ出願のEU特化版のようにも思えますが、マドプロ出願とは異なり、あくまでEUとしての商標登録であり、EU各国の商標制度に基づくものではないという点が特徴としてあげられます。このため、EUTM出願と同時にEU各国で個別に直接出願することも可能です。
EUTM出願のメリット
EUTM出願のメリットは、ひとつの手続きでEU全体をカバーする商標権を取得できるため、個別にEU加盟国に直接出願していくよりもコストを低く抑えることができるという点です。また、更新などの手続きも一度に済ませることができますので、EU内で広くビジネスを行っていく予定が会社に向いている制度です。
EUTM出願のデメリット
デメリットとしてはあげられるのは、良くも悪くもEUと言う大きな枠組みで運用しているので、小回りが利かないという点です。例えば、一度登録した商標が何らかの理由で取消・無効となると、その効力がEU加盟国全体に及びます。
加えて、類似商標の有無(相対的拒絶理由)の審査が行われますので、結果として、多くの類似商標が併存しているのが現状です。このため、類似商標を用いている他社から異議申し立てを受けるリスクも高いところです。法的なリスクを抑え、確実に権利を保護したいという場合は、各国への直接出願も並行して行っていく必要が出てきます。
自社に適した取得方法は?
これまで説明してきたように、外国で商標権を取得する方法は何通りもありますので、それぞれのメリット・デメリットを正しく理解して、自社に適した取得方法を選択していくことをおすすめします。
これまで説明してきた方法の中では、マドプロ出願が最も効率的にも見えますが、日本で登録・出願した商標との同一性が求められる関係上、商標を利用したブランド展開がどうしても画一的なものになってしまいます。例えば、国によっては、歴史的・文化的な背景からタブーとされているデザインもあるので、商標にアレンジを加える必要が出てくるケースもあるところです。このような細かな配慮をしていく上では、マドプロ出願はやや使い勝手が悪いものと言えます。
商品やサービスを展開しようとする国が限定されており、現地での営業体制も整備されているようであれば、個別に直接出願していった方が効率的な場合もあります。特に、商標権を含む知的財産権の保護制度を整備中の新興国では、関連する法制度の改正が頻繁に行われることも多いですので、直接出願・国ごとの個別管理にすることによってスピーディかつ柔軟に制度改正に対応していくことができます。
また、現在のところはフランスでしか商品やサービスを展開していないけれども、いずれはEU全体に広げていきたいという目標を持っているという場合は、フランスでの直接出願と並行して、EUTM出願を進めて将来への布石を打っておくということも考えられます。
外国での商標権取得にあたっては、現在の事業内容のみならず、将来も見据えて戦略を練っていくことが重要となります。各国の法制度などの専門知識も必要になってきますので、弁理士などの専門家とも相談しながら進めていきましょう。