海外戦略の要となるマドプロ商標とは
日本には世界各国との貿易を業務の根幹としている企業が数多くあります。そして現代は、グローバル社会の到来によって、産業界・経済界にも国際的なルールが定められ、各国はそれらの国際基準を遵守することが求められる時代となっています。
これから海外進出を図ろうとする日本企業にとっては、諸外国での業務を支障なく遂行しかつ事業を発展させるためには乗り越えるべき障壁が数多くあります。その中でも近年大きな課題となっているのが知的所有権の問題なのです。
商標の国際基準と管理の一元化
知的所有権分野では、特許関連で発生する諸問題が知られていますが、商標においては、「マドプロ商標」という単語が近年特にマスコミの経済記事で散見されるようになってきています。
マドプロ商標とは、正式には「標章のマドリッド協定の議定書」という商標に関する国際間協定のことで、1989年にスペインの首都マドリッドで開催されたWIPO(世界知的所有権期間)の国際会議で議決され1995年12月に発効となりました。
「マドプロ」とは「マドリッド・プロトコル(議定書)」の略称で、それまで各国で異なっていた商標法によって生じていた商標トラブルを、国際協定によって解消することを目的として締結された議定書を指します。
簡便になった商標の国際出願
マドプロには2015年8月現在で世界の主要95カ国が加盟しており、加盟国は年々増加してきています。マドプロ商標の制定により、それまで煩雑だった国際商標の出願形式が利便化され、手続の様式も統一されたことで、各国の企業は諸外国での商標登録がよりスムーズになりました。
特に、西側先進国だけでなく中国を筆頭に経済発展が著しい国々の多くが同じ協定の枠に入ったことで、それまで発展途上国が先進諸国企業の商標を勝手に模倣するという深刻な事態が改善に向かうこととなりました。マドプロ商標協定の加盟国であるからには、他国の商標を模倣する企業を放置することは重大な国際規約違反として国際的に非難されることとなったのです。
日本企業にとって、マドプロ商標という国際協定での最大のメリットは、それまで外国で商標を取得する際には当該国の代理人を通じて各国ごとに出願していたものが、全て日本の特許庁に出願すればよくなったことです。国内外の障壁が取り除かれたことで、諸外国で自社の商標を取得する必要のある企業は、国際出願の際に面倒で時間と経費のかかる務手続きから開放されたというわけです。
さらにマドプロ商標出願では、一回の出願で指定国以外の国々に対しても指定国と同等の権利が主張できる点に特長があります。これによって、複数の国に対して別々に出願手続きをする必要がなくなりました。自社商品を海外で販売展開する企業にとっては商標出願・登録に関して大幅な経費節減につながります。
マドプロ出願の手順
マドプロ出願における手続きの概要は以下の手順となっています。
- 特許庁経由にて取得したい国を指定の上、WIPOに願書(英語記述)を提出する。
- 指定国にて審査を受ける(査定期間はおよそ1年~1年半程度)。
- 期限内に拒絶査定がなかった場合は許諾されたこととなり、商標登録手続を行う。
- 登録手続完了後、日本の特許庁が発行する商標の国際登録証を受領する。
※審査は国外外共に書類不備をチェックする「方式審査」と商標自体の内容を審査する「実体審査」の2通りが行われます。なお、商標の国際出願には日本国内での出願・登録が条件となっています。
海外進出に商標登録は必要不可欠
これまで、商標の国際出願を躊躇していた企業にとっては、積極的に海外戦略を立てやすくなってきています。たとえば、日本ではなじみがない文字や図形でも、国によっては訴求力の高い標章もあることで、各国の文化や習俗に適合した商標を取得するという手法も考えられます。ただしその反面、競業他社から出し抜かれてせっかくのビジネスチャンスを失う可能性もあるわけです。海外進出を目指す日本企業にとっては、マドプロ商標出願など国際的な知的所有権関連に詳しい人材の確保が急務といえるでしょう。