起業の際に知っておくべき商標の知識
増加する若い起業家たち
近年、日本では新規に会社を興す若い世代が増えています。また、脱サラして起業するビジネスマンも少なくありません。戦後の高度成長期に日本のビジネス社会の規範とされていた終身雇用制が1980年代終盤のバブル経済崩壊とともに終焉し、正規雇用率が低下した日本の雇用環境がこの20年で激変したこともその背景にあると思われます。
つまり起業を考える人々には、将来の展望が拓けない怠惰なサラリーマン生活をおくるよりも、「一国一城の主となって思い切り自分の可能性を試してみたい」という意識が強く働いているのでしょう。
しかしながら、新規に法人を興し会社組織を運営するということはそれほど簡単ではありません。法務・財務・税務・人事労務・会計など法人運営にかかわってくる事項は多岐にわたっており、それらをすべて専門家任せにしたとしても、経営者にはそれ相当の知識が要求されるからです。
起業の際に必要な商標の知識
そして、若い企業家が失念しがちなのが商標の重要性です。特に製造業以外の企業においては特許とは縁がないだけに、知的所有権に関しては無関心という経営者が少なくないようです。
しかしながら、商標に関しては製造業以外のサービス業など多くの業種にかかわってくるので「知らなかった」では済まされない事態に陥ることがあります。起業を計画している人であれば、会社創設の前には最低限の商標の知識は必要不可欠なのです。
会社を設立する際、最初に決めるのが会社名ですが、どのような社名にするのか、商標とのからみで慎重に考えねばなりません。たとえば社名を自社の主力商品と同じ名称にしたい場合には、必ず商標登録しておく必要があります。
法人名は同じ名称の法人が他にあった場合、以前は同一市町村の同一業種でなければOKとされていたので、所在地が離れていれば法人名が同一でも問題はありませんでした。しかし現在は同一社名で問題が起きた際には「不正競争防止法」によってその法人名称の適性が判断されることとなっています。
商品の名称は商標法が適用されるので、場合によっては九州の企業が遠く離れた北海道の企業から名称の使用差し止めを要求されることもあるのです。それだけでなく損害賠償訴訟を起こされる可能性さえあり、訴えられて商品名だけでなく法人名称も変更せざるを得なくなるパターンも少なくないのです。
法人名と目玉商品の商標登録
また、法人名称と主力商品名を同一にする場合、先に社名を決めてあとから商品名を商標登録する行為も危険です。特に文字商標に関してはその区分における商品(サービス)の呼称を独占することとなるだけに、特許庁の審査もより厳しいものとなります。もし出願が拒絶査定となれば、法人名と商品名を同じにするには社名を変更せねばなりません。
法人名と自社商品名を一致させた販売戦略をとる場合には、どのような名称にするのか、商標法に準じて熟考して決めることが経営者に求められます。そして、「名は体を表す」の格言どおり、法人名を決める際には商標調査の必要性も考慮する必要があるというわけです。
この他にも、自社商品を商標登録して目玉商品とする場合に注意する点があります。それは、その商標が文字商標なのかあるいは図形商標なのかそれとも両者を組み合わせた商標なのかという点を把握しておくべきという点です。
なぜかというと、文字と図形を組み合わせた商標のみ登録していた場合、その後に文字だけを出願しても、先に同様の登録商標が存在しているために拒絶査定を受けることがあるからです。この場合、文字と図形の組み合わせだけでなく、最初に文字と図形を別々に出願しておく必要があるというわけです。
商標を複数登録するにはそれだけ費用もかかりますが、自社の主力となる商品に関しては、文字と図形の両方を登録しておかないと後で変更を余儀なくされてなくされ、経営的にも大きな打撃をこうむることになりかねないのです。