「鳥貴族」と「鳥二郎」
飲食業界のマーケティング戦略
他の業種に比較して安定した経営が難しいといわれるのが飲食業です。一人でも多くの固定客を獲得し、いかにリピーター客を増やすかが店舗を軌道に乗せる重要ポイントともいわれています。また、新規オープンした店の約半数が1年以内に閉店となり、3年以上継続できる店は全体の1割にも満たないというデータもあるほど、飲食業は生存競争が激しい世界でもあります。
厳しい飲食業界の中にあっても、とりわけ激しい顧客獲得競争を繰り広げているのが大衆居酒屋などアルコール飲料を出す店舗です。移り気な大衆をひきつけ人気店となるにはさまざまな努力とアイディアが必要で、美味しく独自性のある料理メニューをそろえたり店のインテリアに工夫を凝らすことも大切です。そして、系列店をいくつも抱えるチェーン企業となると、これらに加えて商標戦略も集客のための重要な要素となっています。
近年、複数の店舗を全国展開する居酒屋チェーンにおいては、単に店名だけでなく店の内外観やメニューを含む店舗全体のイメージを消費者に植え付けるというマーケティング戦略をとっています。これらの手法は1980年代後半くらいから主にコンビニチェーンで採用され、大きな成果を挙げていることから、90年代に入って多くの飲食チェーン店でも取り入れられるようになっています。
焼鳥居酒屋同士の係争
成功した先駆者を模倣して追随する業者があとに続くのは世の常であり、飲食店を筆頭として競争が激化する一方のサービス業界においても例外ではありません。最近、店舗の商標関連で裁判に持ち込まれ話題となったのが焼鳥チェーン店同士の係争問題です。
大阪市に本社を構え近畿から関東まで1都2府6県で約350もの店舗展開をする人気焼鳥チェーン店の「鳥貴族」が、自社の有する商標権を侵害されたとして同業の「鳥二郎」を提訴した事件で、マスコミで報道され大きな話題を呼びました。
「鳥貴族」は、全品を一律280円とした低価格に加えてお洒落で清潔な雰囲気のインテリアなどイメージ戦略が奏功し、それまで中高年のサラリーマンが中心だった焼鳥店に女性やファミリー層を取り込むことに成功し急成長を遂げた焼鳥居酒屋店です。「鳥貴族」が争点としたのは、後発の「鳥二郎」が「鳥貴族」のロゴマークやメニュー構成そして外装・内装インテリアから従業員の制服にいたるまでをそっくり模倣しているという点で、これらは営業妨害に相当するとして「鳥二郎」の商標の使用差止めと約6千万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴したというのが経緯です。
「トレードドレス」の模倣問題
「鳥二郎」は「鳥貴族」と同じビルに出店しており「間違って入店した」との苦情が鳥貴族に寄せられているとのことで、鳥貴族側としては、類似商標にとどまらず、店全体のビジネスモデルを丸ごと模倣されたことによる営業妨害行為とみなして裁判に訴えたようです。
訴えられた鳥二郎側に言い分は、ロゴマークは類似しておらず、店舗のイメージなどもありふれたものであり鳥貴族が独占する権利ではないというものでした。「鳥二郎」のロゴマークはすでに商標登録されていることから、2015年4月に提訴された裁判とは別に、鳥貴族側は「鳥二郎」のロゴマークが「鳥貴族」の類似商標にあたるとして特許庁に「鳥二郎」の商標無効の申立を行っていますが、今回の係争は商標以外の部分にまで及んでいます。
日本の商標法の概念には米国にみられる「トレードドレス」(店舗の外観や配色などの全体的イメージ)は保護されておらず、今回のような係争が今後増加することによって「トレードドレス」を商標に加えるか否かの議論が起きるかもしれません。
今回の焼鳥チェーン店同士の係争は、提訴から約7ヵ月後の11月に両者の和解が成立したことで一応決着しました。商標を含む店舗全体のイメージ戦略を起案する業者にとっては示唆に富む係争事案だったともといえるでしょう。