ピザ・レストランの店名「マフィア」は欧州で商標となり得るか?
第二次大戦後、アフリカやアジアの植民地の大半を失ったヨーロッパの先進国諸国は、互いの結束力を高めて米ソ両国に対抗しようとまずEEC(欧州経済共同体)を発足させ、これが後にEC(欧州共同体)に発展し、現在は28ヵ国の加盟国で組織されるEU(欧州連合)となっています。
EUでは、各国間で起きる諸問題を解決するために「EU(欧州連合)裁判所」を設置しています。EUには「EU知的財産権庁」が設置されていますが、同庁の決定に不服がある場合はさらに「EU(欧州連合)裁判所」に提訴することが可能です。そして最近、ある商標に関する判決が世界的なニュースとなりました。以下にその内容をご紹介しましょう。
EUが設置した3つの裁判所
EUの最高裁判所に相当するのが「EU裁判所」だけに、同裁判所の判決はEU諸国の規範となり、以後の係争を解決させるための重要な判例となることはいうまでもありません。知的財産権においては、各国間でまちまちだった法解釈を統一しようという機運が高まっており、さまざまな係争事案が審議されています。
ルクセンブルク市には、一般の係争を裁くこの「EU一般裁判所」と、特殊な係争事案を裁く「EU特別裁判所」、そしてEU憲法の解釈に関する事案を裁く一般の「最高裁判所」に相当する「EU司法裁判所」の3所に区分されて設置されています。
そして「欧州裁判所」で2018年3月に下された商標に関する判決が世界中を駆けめぐりました。その内容を要約すると、スペイン全土でチェーン展開している、ピザなどイタリア料理のレストランが登録していた店名の「マフィア」という登録商標に関する係争事案です。
レストラン「マフィア」は同店名にてすでに10年以上にわたって営業を継続しており、スペインでは知名度の高いイタリアン・ピザ・レストランとして一定の地位を獲得しています。
「マフィア」の商標には「NO!」
レストラン・マフィアが登録していた店名の「マフィア」の商標について、イタリア政府が登録取り消しを主張した訴えについて、店側が「マフィア」の商標保護をもとめて「EU一般裁判所」に訴えていた係争事案に2018年3月に判決が下りました。
判決内容は、イタリア政府の主張を全面的に求めるもので、同裁判所は「犯罪組織の組織名は、公序良俗に反する」として2015年にEU知的財産庁が下した判決を追認したのです。
どうしても店名「マフィア」の商標を登録したい店側がこの判決を不服として「EU司法裁判所」に上訴することはできますが、同店では店のキャッチフレーズに「マフィアの食卓」というコピーを使用しいます。
今回の判決でこれが「著しく不道徳」とみなされたこともあり、EUの理念をかかげる司法裁判所が逆転判決を下す可能性は極めて低いと推測されています。
登録商標の社会的意義と目的
今回の件をアジアに置き換えて考えると、たとえば東南アジアの某国で「ヤクザ」という店名を持つ外食チェーンが別のアジアの国に出店し「ヤクザ」を商標登録しようとした場合に、われわれ日本人はどういう印象を持つか考えてみれば、今回の係争事案の本質が分かると思います。
商標法は、あくまでも健全な産業の発展により社会を明るくするために設けられた法律であり、登録商標制度は商標を使用する業者の権利を保護すると同時に、社会的規範を前提とする取り決めのはずです。
明らかに犯罪組織に加担するような商標は「パロディ」としても国民の許容範囲を逸脱していると言わざるを得ません。マフィアによる犯罪の被害者の立場に立てば、商標登録は認められないのが妥当だと思えます。
「マフィア」という単語自体は発祥国のイタリア以外ではそれほど悪い印象がないのかもしれませんが、EU加盟国のイタリア政府が明確に「NO」という意思表示をしている以上、この名称がEU加盟国で登録商標となる可能性はほぼゼロといってよいでしょう。