「位置商標」の概念と登録要件
グローバル社会と新しい商標概念
知的財産権をめぐる法改正が急ピッチで進んでいます。これは、国際間のグローバル化が加速してきている世界的な世相が背景にあるといってよいでしょう。ヨーロッパ各国が大同団結したEUは、ユーロという統一通貨に代表される経済的側面での各国の利害が一致して実現化しました。
そして経済のグローバル化は、必然的に知的財産権の法的概念の統一化を推進する結果を生みました。特に、工業所有権たる特許や商標の法律が各国間でバラバラであっては、各国間の交易の自由化は実現困難なことから、経済のグローバル化はすなわち工業所有権の法律概念を一致させることを意味していたのです。
そのような時代の波に呼応して、アジアを代表する先進国たる日本も例外的存在とはいかず、長らく大きな改正がなかった工業所有権の分野において、特に商標法を中心に1990年代後半から歴史的な大改正が進められてきたというのが現状です。商標法の改正で特徴的なのは、既存の法律の解釈を変更する改正ではなく、それまでなかった概念が新しく権利として加わった点にあるでしょう。
位置商標の定義
新たに加えられた商標には「音」や「色彩」などいくつかが知られていますが、一般には理解が難しいといわれるものが2015年4月より導入された「位置商標」です。「位置商標」とは文字通り商品の形状の一定の位置(一部分)を商標として登録可能とした画期的な概念であり、それまでの常識をくつがえすものでした。
一般には知られていないものの産業界では大きな話題を呼びました。ちなみに、WIPO(世界知的所有権機関)では位置商標を「位置で特定された標章が製品に表れたもの」と定義しています。「商品の形状の一部」という概念は従来すでに「部分意匠」として意匠法で権利保護されていましたが、意匠は登録設定から20年経過すると権利が消失するため、権利を存続させたい企業にとってはこの法律が大きな障壁となっていました。
そこで、日本でも欧米に習って部分意匠を「位置商標」として商標に加え、たとえ目立たない部分であっても、それが新規性のある形状と認められることにより、晴れて位置商標として半永久的に権利が保護されることとなったわけです。
商標に関し、その権利範囲が最も広い範疇を保護される国家ともいわれる米国では、早くから位置商標が法制化されており、ちなみに音や色彩の他にも匂いや触覚、味覚そしてトレードドレス(商品の陳列台など)に至るまで実に幅広い分野の商標化が認められています。日米間の商標法の相違によって、米国に進出した日本企業との商標トラブルも数多く報道されています。商標の権利侵害が認定されると、その損害賠償も半端な金額でないだけに、これから海外進出を予定している日本企業にとっては軽視することができない重要課題となっているのです。
位置商標が占める重要性
欧米諸国では、シャツのポケット部分の形状にも位置商標が権利化されており、EUでも靴底のかかと部分の形状が位置商標として認められているなど商標の細分化が進んでいます。これらはもちろん、日本では位置商標どころか部分意匠としても権利化されていたかどうか分からないほど細かい部分の形状です。
これらが法改正によって位置商標として半永久的に権利化されるとなると、企業の新商品の開発部門担当者にとって由々しき事態となることが予想されます。
つまり、開発する上で全体形状のみならず、商品開発部門では商品の形状の細かな部分にまで位置商標として権利化できるか、あるいは類似商標として他社の権利を侵害していないかどうかまで気を配る必要性に迫られる時代になってきているのです。商品の企画段階から始まってデザインの選定から宣伝方法に至る全過程において、位置商標の問題を抜きに進めることはできないということになりそうです。