日本の企業社会における「PLT」と「STLT」の導入における課題とは
グローバル社会と知的財産権
21世紀を迎えた頃から、日本では「経済のグローバル化」とか「グローバル社会の到来」という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。各国ごとにバラバラだった経済面での価値基準を国際的に統一化を図ることを意味する言葉です。
貨幣経済においては、世界の基軸通貨となっている米ドルに対抗してヨーロッパのEU諸國がユーロを創設したことが代表例です。ただし、経済のグローバル化という目的は素晴らしいのですが、その運用方法などにおいては各国間の思惑の違いもあって、必ずしも順調に推移しているとはいえないのが現状のようです。
そして、特許や商標をはじめとする知的財産権に関しては、中国を筆頭にした工業化を加速し経済発展を遂げる国々と旧来の権益を守ろうとする先進工業国との間でさまざまな軋轢が起き、次々に発生する諸問題をいかしにして解決するかが深刻な国際問題となってきています。国際的な真のグローバル社会を実現するためには、知的財産権における規約の国際的ルールづくりが急務となっている現状があり、諸問題の解決のために導入されたのが「特許法条約(PLT)」ならびに「商標法に関するシンガポール条約(STLT)」なのです。
以下、両条約の内容について紹介してみましょう。
「特許法条約(PLT)」の概要
「特許法条約(PLT)」とは"Patent Law Treaty"の略称で、日本では「特許法条約」と訳されています。各国間で異なる特許制度を調和させると同時に、煩雑であった国際特許出願の際の諸手続を簡素化することを目的として、世界知的所有権機関(WIPO)が主導し1995年から討議が開始されました。そして、2000年6月1日のジュネーヴ会議にて採択の後、2005年4月28日に発効となったのです。当初は欧米豪の先進国を中心に32カ国が締結してスタートし、日本は2016年3月に加入申請し同年6月11日より正式参加が決定しました。
PLTでは特許出願時の明細書に指定言語の規則がなく、どの国の言語でも認められるのが特徴で、明細書に欠落していた文章や図面があっても出願後に補完することが可能となっており、特許申請でありがちなミスをカバーできるフレキシブルな制度となっています。権利化を急ぐために書面内容の不備が起きがちな点を考慮されているといるわけです。また、この他にも申請の簡便化を図るための手続き上の簡略化がいくつか施されていることと、故意以外での原因による手続期間遅延の救済措置なども盛り込まれている点が注目されます。
「商標法に関するシンガポール条約(STLT)」の意義
「商標法に関するシンガポール条約(STLT)」とは"Singapore Treaty on the Law of Trademarks"の頭文字であり、知的財産権の中でもトラブルが起きやすい商標について国際間の統一ルールを作る目的で、「世界知的所有権機関(WIPO)」内の組織である「商標法等常設委員会(SCT)により2006年6月に制定されました。シンガポールで開催された外交会議で決定したことからこの呼称となっています。2015年の段階では世界の先進主要42ヵ国が加盟しており、日本は2016年中に加入することが決定しています。
STLTでは、すでに締結されている商標法条約に加えて新たに下記の項目が加わりました。
- 商標の対象となる種類の拡大=「音商標」の採用など。
- 電子出願制度の整備=出願の簡便化。
- 手続期間遅延の救済措置=期間の延長や消滅した権利の回復など。
なお、「PLT」と「STLT」の加盟国は、今後も増加することが見込まれており、両方とも知的財産権における国際間ルールとして定着していくことでしょう。参加が出遅れたわが国ではありますが、加盟後は知的財産権で世界をリードする工業先進国たる存在感を世界に示して欲しいものです。