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任天堂の特許侵害裁判にみる米国特許裁判制度の特性

日米特許係争のはじまり

日本と米国は特許取得数がいずれもトップクラスであるだけに、特許をめぐる両国間の係争事案もまた少なくはありません。特に、産業界のグローバル化が加速し始めた1980年代後半以降、日本と米国とは知的財産権に関する国内法の相違によって、さまざまなトラブルが生じ国際問題となりました。当時大きな話題となった日米特許係争事案に、ミノルタ(現コニカミノルタ)株式会社と米国のハネウェル社との自動焦点式カメラ関わる特許係争があります。ハネウェルが有していた自動でピントを合わせる技術をミノルタの新型一眼レフカメラが特許侵害しているという訴えで、裁判の行方が注目されました。

 

ミノルタ側としては、自社の特許は米国企業側のものとは技術的に大きな差異があり、特許侵害にはあたらないとの判断をしていましたが、米国地裁の判決は意外にもミノルタ側の敗訴で、しかもかなり高額な賠償を課すものでした。結果的にミノルタ側は控訴せず和解し約165億円もの支払いに応じ、この日米特許係争は終結しました。そしてこの事案以降、日本企業を特許侵害で提訴する米国企業が続出し、日本企業は裁判で争わずに和解に応じるという流れができたのです。

 

米国の陪審員制度が需要なポイントに

このような、いわば日米知財摩擦とでもいうべき風潮が形成された背景には、日本と米国との裁判制度の違いがひとつの要因となっています。

 

日本では民事裁判はすべて判事が判決を下しますが、米国では民事裁判も陪審制度が取り入れられています。つまり、法律の専門家ではない民間人が「評決」という形で判決に関与することから、このような外国企業との係争においては、どうしても自国企業に有利な判断に傾いてしまうという傾向があるわけです。

 

しかも厄介なことに、ミノルタが敗訴した裁判以降、米国では最初から和解金目的の日本企業をターゲットとする特許訴訟が1990年代以降相次ぎました。近年、特許を含む知財に関する法律の国際的な統一ルール作りが進んでいる要因には、このような時代背景があったことも見逃せません。

 

現在、米国企業の和解金狙いの特許訴訟は一段落していますが、最近、日本企業をめぐる米国発の特許訴訟が話題となりました。それがゲーム機器・ソフトメーカーの大手である任天堂の「裸眼立体視」特許の裁判です。これは、任天堂のゲーム機「ニンテンドー3DS」で、立体メガネなどを使用せず、裸眼でゲーム動画が立体視できるという画期的な発明に対し、元ソニーの社員だった日本人男性が米国の地裁に自身が有する特許の侵害であると2011年に提訴した係争事案です。

 

地裁評決を覆した米国の司法判断

米国企業でなく個人の日本人が日本企業に対して米国で特許訴訟を起こすというレアケースであり、しかも地裁の陪審評決では2013年に男性の訴えが認められたため、内外で大きく報道されました。任天堂側が評決に異議を申し立て、米連邦巡回控訴裁判所による審議によりこの事案は連邦地裁への差戻しとなり、2016年4月に地裁は「特許侵害に該当せず」との逆転判決を下したというのがその経緯です。地裁陪審員の判断は、あくまでも「評決」であり、正式な判決は判事が下すという、日本の民事裁判とは大きく異なる点が特徴的といえます。

 

今回の裁判では、地裁で陪審員から任天堂に不利な評決が出ても任天堂は妥協せず争う姿勢を見せました。これは、相手が米国企業ではなく日本人個人あったせいかも知れません。最初の評決での賠償額は当該ゲーム機の卸売価格の1.82%のロイヤリティ(権利配分)だっただけに、これが通れば、必ずしも経営が順調といえない任天堂にとっては大きな痛手となるところでした。

 

今後も裁判は続くので、最終的にどのように決着するのかは不透明ではありますが、海外での事業が経営の大きなウェイトを占める企業にとっては、米国での知財裁判の動向は、相変わらず重大な関心事であるといえるでしょう。

 

 

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