動き商標の概要と実例解説
最も解釈の幅が広いと思われる「動き商標」
近年の商標関連をめぐる話題には、やはり2014年にスタートした商標法大改正に関わる事象が多い傾向があるようです。従来、文字や図形そして立体造形物に限定されていた商標が一気に5種類もの新しい概念が加わったことによる産業界への影響は甚大で、今後は新商標概念に関わる混乱がしばらく続くのではないかとも想定されています。新商標が混乱を招く要因としては、登録要件の解釈に尽きるといってよいでしょう。
改正された商標法では、むろんこれらの登録要件については明確に規定されはいますが、現実には各業界の受け取り方によって解釈の違いが発生するのは避けられないでしょう。自社の商標が登録査定となるか、あるいは拒絶査定をくらってしまうか、企業発展の命運にも関わりかねない事案だけに、解釈の違いにおける訴訟などが起きることも予想され、それらの裁判の判例や審判結果によって、普遍的な解釈に収斂されていくことは必定です。
さて、5種類の新商標である「色彩・音・ホログラム・位置・動き」の中でも、最も解釈に幅がありそうなものは「動き商標」なのではないでしょうか?他の商標が固定化されたものであるのに対し「動き商標」は文字どおり「動く商標」なので、当然ながら時間の経過によってその商標が変化するわけで、その変化の有効性や新規性のとらえ方について、実は出願する側自体もその効果を把握しきれておらず、特許庁の判断を見極めるための「とりあえず出願」というパターンも増えてくる可能性さえあります。
登録査定となった「動く商標」の実例
2015年に登録査定となった動き商標は全部で16件で、全出願数70件に対し約23%弱となっており、この割合はまずまずの数値といえるでしょう。商標査定を受けたのは大手企業が多く、一般消費者にも馴染みが深いCMの動画が含まれていました。それでは、現実に「動き商標」として登録されている実例を以下にいくつか挙げてみましょう。
- 東宝映画「冒頭に映し出される、輝く東宝マーク」
- エステー「ひよこのマスコットキャラの動き」
- 久光製薬「動く自社のロゴマーク」
- 小林製薬「中年男性の腹部が輪切りなって中性脂肪を示すアニメ」
- 東レ「動く自社のロゴマーク」
- バスクリン「動く自社のロゴマーク」
- 菊正宗「瓶を包んだ風呂敷がはらりと落ちる動画」
- ワコール「動く自社のロゴマーク」
「動き商標」の今後の傾向は?
以上、登録査定となった「動き商標」の代表例を列挙しましたが、テレビCMでの自社ロゴマークに動きを加えたものが目立ちます。まずは自社のロゴに動きを加えて動画丸ごと登録商標とする、という宣伝戦略のようです。また、製薬会社が多いのに気付きます。これは、医薬品類については「薬事法」という規制があるため、各製薬会社は自社の商品の宣伝についても厳しい制約のもとにテレビCMなどを制作していることと関係しています。
つまり、商品の効能などを強調して宣伝することができない事情から、消費者に対してよりインパクトのあるイメージ動画をCMとして活用するという手法を各社とも採用しており、これが「動き商標」出願につながっているとみてよいでしょう。
また、東宝映画に関しては、米国の「20世紀フォックス」社の有名なサーチライトに照らされ立体的に移動するCG動画の強烈なインパクトに比較すれば幾分おとなしい印象ですが、上映作品と自社とのイメージを同社の宣伝効果として観客に植え付けるブランド効果を期待しての出願と思わます。
さらに、自社の動く商標が登録されることで、類似的な動画像の排除につながり違法なコピー商品の排除のためにも有効です。このように、「動き商標」はまだスタートしたばかりなので、発表された査定のものにそれほどの意外性はありませんでしたが、今後は上記で紹介した小林製薬のアニメーションなど、興味深い内容のものが出願され登録査定を受けて話題となることは十分考えられます。