「音」と「動き」に集中した新商標
「音」と「動き」に集中した新商標
2015年4月に、商標法改正による新しい概念の商標制度が開始されたと同時に、各企業の出願が特許庁に殺到し、約半年後となる10月27日には記念すべき第1弾となる43件の新商標の許諾が特許庁より公表され、大きな話題となりました。
全43件に内訳は「音:21、動き:16、位置:5、ホログラム:1、色:0」となっており、新商標に対する企業の関心が「音」と「動き」に集中していることをうかがわせます。
「音」や「動き」などを商標として認めるという制度は、多様化する商品(サービス)形態と広告宣伝技法の進歩により、旧来の商標法ではカバーしきれない状況が生まれ、民法での「不正競争防止法」に依拠した係争が増加の一途をたどっていたことに起因しています。
新商標導入の背景
企業が自社商品(サービス)自体やその広告宣伝の際に用いる音や色彩・動きなども消費者が他社商品との識別するに際し大きな役割を担っていることが明白である以上、裁判での係争に手間と時間がかかる不正競争防止法では、模倣された側に著しい不利益をもたらすという問題がありました。
そしてさらに、これら商標に関する新しい概念の法制化については、すでに欧米をはじめとする先進諸外国では確立していることもあり、新商標の導入は特許とともに知的財産権の国際的統一基準の推進という側面も少なくないようです。
日本においても、近年は広告手法が格段の進歩を遂げていることから、従来の平面と立体のみという商標の概念を音・色・動きにまで拡大する必要性に迫られていたことが新商標導入の背景にあったといってよいでしょう。
CMでおなじみのメロディーと音声
そもそも、商標とは社会に流通する商品やサービスに付与される名称や図形そして商品そのものの形状に与えられる権利でした。したがって、色や動きに関しては視覚分野なので一般にも理解しやすいといえますが、「音」は「聴覚分野」であるだけに、これまでの商標概念を視覚から聴覚に拡大した画期的法改正でもあります。したがって改正された商標法は、これまでの文字商標における「呼称類似」の概念を純粋に「音」にみに規定したものといえるわけです。
2015年10月27日に公表された音に関する新商標は、テレビCMで繰り返し流されているものが多く含まれています。その中の一部を以下に紹介しましょう。
【音商標】
- 久光製薬のCM「ヒ・サ・ミ・ツ」というメロディーと音声
- 伊藤園のCM「おーい、お茶」というメロディーと音声
- 味の素のCM「アジノモト」というメロディーと音声
- 小林製薬のCM[ブルーレット置くだけ]というメロディーと音声
- 大正製薬のCM[ファイトー、イッパーツ]という音声
【動き】
- 東宝の映画冒頭の動画ロゴ
- ワコールのテレビCMで流れる動画ロゴ
「色」に対しては厳しい判断が
上記のいずれもが、一般家庭ではすでにおなじみとなっているCMのものばかりで、これらの音や動画などが正式に商標として認められたことで、今後もさらにオリジナリティーのある新商標の出願が各企業によって増加することと思われます。
なお、「色」に関しては、今回コンビニチェーンを全国展開する大手企業が出願した店舗外装の色彩商標は認められておらず、全体としても色の商標はゼロであったことから、音や動きに比較して、色の商標については特許庁の判断は厳しいという結果となっています。
特に多くの人々の目に触れる店舗外装の色彩配合においては、その影響力が大きいことから、一社に権利を独占させることが企業間の正常な競争を阻害する恐れありと特許庁が許諾に対して慎重な対応をとった結果であると思われます。
今後も世間にあふれている商品広告の音・動き・色などのうち、商標の対象と対象外の判断基準が確立していくものと考えられ、企業の宣伝戦略においても、新商標に関する知識と情報収集能力が必要となっていくことでしょう。