五輪女子カーリングの「そだねー」商標出願をめぐる騒動
2018年2月に韓国で開催された「平昌冬季オリンピック」では日本選手勢は予想を上回る活躍を見せ、日本中が大いに沸きました。そして特に目立ったのが女子カーリングの日本代表です。真剣な眼差しで競技に専念する彼女たちの姿に感動した人も多かったことでしょう。
休憩時間にメンバーがリラックスして会話する際に発していた「そだねー」という言葉もたちまち流行語になりました。ところが五輪が終わったあと、この「そだねー」の商標出願をめぐる騒動が起きて、意外な反響を呼んでいます。
今回は「そだねー」の商標出願騒動の顛末について、事の本質を探ってみましょう。
何気なく発した言葉「そだねー」が流行語に
流行語といえば、テレビなどでお笑いタレントが使う言葉がそのまま流行り言葉となることが多いのですが、当人は流行させようと思って発したわけではない言葉が、時として流行語の仲間入りをすることも少なくありません。「流行は時代を映す鏡」という格言がありますが、流行語を聞けばその時代の光景が目に浮かぶという意味では、洋服などのファッションよりもこの格言にふさわしいといえるかもしれません。
さて、平昌冬季五輪で流行語となった「そだねー」も、実際には代表メンバーとなった北海道の「LS北見チーム」のメンバーが何気なく発していた北海道方言に過ぎません。テレビ観戦していた人々は、緊張感のあるカーリングという競技の合間に交わしていた言葉に、一服の清涼感と親しみを抱いたことが「そだねー」が流行語となった要因でしょう。
大手菓子メーカーが商標出願して大騒動に
ところが3月に入り、この流行語「そだねー」を北海道の大手菓子メーカー「六花亭」が商標出願していたことが明らかになったのです。爽やかな活躍で銅メダルに輝いた「カー娘」の感動が、世間では一気に怒りの感情に変わり、SNSなどでは六花亭を非難する意見が大勢を占めました。思わぬ反響に対し「六花亭」側は「決して自社が独占するつもりでの出願ではない」という声明を発表し、事態の沈静化を図ろうとしました。
しかしながら、タレントでもない五連代表選手が使った方言を、いかに地元企業とはいえ、一企業が時流に乗って「早いもの勝ち」とばかりに商標登録を図る、という行為に非倫理的な匂いを嗅ぎ取った人々(特に若者たち)が反発したことも理解できます。
「六花亭」の言い分は「他企業に奪われるよりも地元企業が保護する方がまし」とのことのようですが、同社が利益を追求する民間企業である以上、降って湧いたような流行語を用いて自社商品に売上につなげようという意図が全くないということはまずないでしょう。
北見工大の生協が2日早く出願
そしてこの一件は3月下旬に意外な展開を見せます。北見工大の生協も「そだねー」の商標出願を「六花亭」よりもわずか2日早く出願していたことが分かったのです。同大学はLS北見の地元でもあり、数名の五輪代表選手の母校でもあります。日本の商標法は「先願主義」をとっており、同じ商標ならば1日でも早い出願が優先されます(同日出願の場合は両者の話し合いで決着がつかなければ抽選となる)。
したがって、今回の「そだねー」が仮に登録商標となるのなら、北見工大の生協に軍配が上がる可能性が高いということになります。同生協は「商標登録が実現した際には、カーリングの普及に協力してくれる企業には使用許諾について柔軟に対応したい」と発表しています。「六花亭」にとっては思わぬライバルが現れたもので、同社がこのまま商標をとれないとなると、ネットでさんざんに叩かれたことで大きく企業イメージが損なわれたことと併せるて「泣きっ面に蜂」の顛末となりそうです。
今回の一件は、2005年に起きたネット上のアスキーアートを某企業が商標出願したことでネットが「大炎上」となり、結局出願を取り下げる羽目になった「のまネコ事件」を彷彿とさせる騒動でした。いずれにせよ、民間企業にとっては、自然発生した公共的な場所での流行語を安易に商標出願することへの警鐘ともなったのではないでしょうか。