小売等役務商標制度の内容について
中小の小売業者の不利益を解消
日本における商標法で規定されている登録商標は「1区分1商品」が原則となっており、この制度では、複数の区分で商標を登録したい場合には、必然的に各区分ごとに商標出願をすることになります。しかしながら、この制度では、たとえばオリジナルブランドを使って多種類の商品を販売する雑貨商などは、商品ごとに商標登録をする必要があり手続きの煩雑さと経費負担が重荷となっていました。
本来、企業間の競争を正常で公平なものにすることを目的としているはずの商標法のメリットが、ごく一部の大手企業に偏在しているという批判があり、特に小売業が使う商標について、これを包括的サービスマークとして認めて欲しいとの声が高まっていたのです。
このような中小小売業からの要望を受け入れ、不都合な状況を改善するために導入されたのが「小売等役務商標制度」で、商標法の改正により2007年4月からスタートしています。
小売業者の包括的サービスを商標に
商標法で定められている区分は第1類から第34類までが「商品」で、第35類から第42類までが役務(サービス)となっています。ちなみに、形のある商品に付ける商標を「トレードマーク」、形のない役務に付与される商標を「サービスマーク」と呼ぶのが慣例となっています。いずれにせよ、どちらも登録商標に変わりはなく、権利の内容や更新期間なども全く同じです。
改正によって新設された「小売等役務商標制度」では、役務の区分である第35類に新たに小売業者等が販売時に用いる商標を総合的なサービスマークとして分類され、出願できることとなったのです。たとえば、あるオリジナルブランドを商標登録しているスーパーマーケットが、この商標を付けて商品を売り出す際に、改正前では商標として保護されるものは実際に販売する商品類またはその商標を記載したチラシやパンフレット類に限定されていました。これが改正によって店内のショッピングカートや店員のユニフォームに付けるマークなどに加え、店舗の看板やウェブサイトの広告表示にいたるまでに商標の権利がおよぶこととなったのです。
自社ブランドが大きな宣伝効果を生む
これまでは、小売店のサービスマークなどの商標登録は限定的であっため、他店が類似したマークを使用した際には「不正競争防止法」に基づいて訴えるしか方法がありませんでした。これが「小売等役務商標制度」によってサービスマークを第35類で商標登録することによって、権利の主張が明確化されることとなったのです。今後は、おそらく小売店のオリジナルブランドをめぐる係争は激減するものと思われます。
「小売等役務商標制度」の導入により、中小の小売業者がオリジナルブランドを利用したイメージ戦略を立てる際に大きなネックとなっていた商標登録の経費が軽減されることとなるとみられています。独自のネーミングや図形、マスコット・キャラクターなど一般消費者に訴求力の高いサービスマークを商標として登録し、販売促進につなげることは企業の重要なイメージ戦略の一環となっています。
したがって、「小売等役務商標制度」を利用し、自社ブランドを商標化することで大手業者との互角に競争することが可能となるわけで、この法改正は中小の小売業者にとって利用価値の高い制度ともいえるでしょう。また、近年急増しているネットショップにおいても、販売する商品の種類に関係なく、小売サービスの包括的サービスマークとして登録できるので、自身のショップの独自性をネットユーザーに訴求するには恰好の販促効果があることは間違いありません。
翻っていえば、いかに消費者の注意を引く素晴らしいサービスマークを創案できるか否かが常用なポイントとなり、中小小売業者が業績を向上させるための重要な要因となり得ることでしょう。