マドリッドモニターとは何か
「マドリッド制度」に基づいた閲覧システム
最近、商標登録をはじめとする知的財産権の分野において、「マドリッドモニター」という言葉がさかんに聞かれるようになってきています。
マドリッドモニターとは、端的に言うと「マドリッド制度に基づいて登録された各国の登録商標と、出願中の商標の最新進捗状況を素早く閲覧できるモニターシステム」のことです。
そして「マドリッド制度」とは、商標登録に関しての国際ルールを定めたWIPO(世界知的所有権機関)による「マドリッド協定議定書」に基づいて出願および登録される商標制度を意味しています。
WIPOでは、これまでにも商標広報のデータベス検索ツールの機能拡充を続けていましたが、特に各国間でトラブルの発生しやすい商標に関して、これから出願する各国の企業と、すでに登録を済ませた権利者が国際商標の出願・登録状況を、これまで以上によりスピーディーに、よりリアルタイムに近く閲覧できるために導入されたシステムがマドリッドモニターなのです。
すなわち、マドリッドモニターを利用することによって、世界各国でどのような内容の商標が出願され、また登録されているのかを現在進行形で把握できるという便利な制度というわけです。
導入された2016年の時点では正規バージョンの公開の前段階としてテストバージョンである「ベータ版」が提供されており、不具合を調整したのちに現在数種類あるWIPOの公報(ROMARIN、Madrid E-Alert、Madrid Real-Time Statusなど)を一元化したツールとして公開される予定です。
なお、マドリッドモニターの正規バージョンが正式に稼働すると、WIPOのWebサイトから旧来のWIPO公報の閲覧はできなくなります。
90万件以上の商標を素早く閲覧、共有・保存
マドリッドモニターの最大の特徴は、マドリッド制度加盟国における国際商標出願者の利便性を第一に考慮してカスタマイズされたツールであるという点にあります。
すでに90万件以上に達する商標の閲覧や共有・保存を素早く実行することは、自社商品(サービス)の商標戦略上有益であると同時に、ツールの操作がごく簡単でリサーチしたい商標が加盟国でどのような取扱いとなっているかが高い視認性で確認・把握できる点も大きな利点といえるでしょう。
さらに、指定した商標について出願後の推移を確認したい場合には、通知メールの受信設定が可能となっているので、その後の情報をリアルタイムに知ることができる点も新しいメリットです。
マドリッドモニターの利用は、まず同サイトの検索条件欄に登録番号と検索したいキーワードを入力するという通常のソフト閲覧と同様のシステムでスタートします。
入力後は「オートコンプリート機能」によって目的の商標を早く見つけるためのヒントがポップアップ画面で確認できるというインターフェースになっています。
利便化の落し穴に要注意
以上のように、マドリッドモニターは国際商標をリサーチするには大変便利で極めて使いやすいツールであり、これまで煩雑だった国際商標の調査業務も、専門家に任せずに自社でやり通せると判断する企業担当者も多いことでしょう。
ただし、便利なツールであることに相違ないのですが、各企業の知財担当者は「ツールはあくまでもツールである」ことを認識しておく必要があるでしょう。
便利すぎるツールに頼りすぎ、企業の命運がかかる判断をすると思わぬ落とし穴が待っています。
マドリッドモニターの利用に関しては、企業内での使用は、あくまでもリサーチの前段階の参考程度にとどめ、その情報を基に、重要な事案に関しては知財に詳しい弁護士や弁理士などの専門家を交えて最終判断を下すという慎重さが求められます。
ツールはツールとして便利に活用し、重要な決定事項は専門家の判断を仰いだ後にすることが無難でしょう。
いずれにせよ、企業が海外進出する際に商標などの知財を、まずはマドリッドモニターで素早く状況確認とその後の追認が容易になったことは特筆すべき出来事だといってよいでしょう。