マドリッド議定書による国際出願
マドリッド議定書による国際出願は、商標に関する国際出願であり、通称「マドプロ出願」と呼ばれます。
外国に商標登録出願を行う場合、通常は、各国ごとに現地の代理人(特許事務所など)を介して手続を行う必要があります。そのため、国によって異なる要件(必要書類、願書の記載など)を満たすよう出願手続を進めなければなりません。
マドプロ出願では、マドプロ加盟国の中から指定した国に対し1つの願書でまとめて出願することが可能となります。
マドプロ出願の願書の提出先は日本特許庁です。願書の内容に問題がなければ、日本特許庁が、出願受理の日を記載の上証明印を押印してスイスのWIPO国際事務局に願書を転送します。その後WIPO国際事務局で方式審査が行われ、問題がなければ国際登録日が付与されて、出願人が指定した国ごとに実体審査が行われます。
マドプロの加盟国は2017年 3月現在で98カ国となっています。
1. マドプロ出願の主な条件
(1) 本国において、商標登録出願又は商標登録がされていること
日本人がマドプロ出願する場合、商標を日本で出願しているか又は商標が日本で登録されている必要があります。この場合の日本の出願を「基礎出願」、日本の登録を「基礎登録」といいます。
(2) 同一の商標を出願すること
マドプロ出願する商標は、基礎出願又は基礎登録に関する商標と完全に同一でなければなりません。完全に同一でない商標を出願した場合、日本特許庁から補正指令が出されます。
(3) 指定商品・指定役務が基礎出願又は基礎登録の範囲内であること
マドプロ出願に関する指定商品・指定役務は、基礎出願又は基礎登録に関する指定商品・指定役務の範囲内でなければなりません。なお、範囲内であれば、指定国ごとに指定商品等を変えることは可能です。
2. マドプロ出願のメリット
(1) 出願費用が安くなる場合が多いこと
通常、複数国又は複数区分を指定して出願した場合、各国ごとに個別に出願するより費用が安くなります。例えば、加盟国であるアメリカと韓国に対し、2区分(例えば、第18類の「かばん、財布」と第25類の「衣服、帽子」)について出願するとします。
日本の特許事務所に依頼して出願し、審査通知が出されることなく順調に審査が進んで登録されたときの費用が、各国ごとの個別出願では約600,000円かかる場合、マドプロ出願にすると400,000円程度に抑えられることが多いです。
(2) 手続が簡易
マドプロ出願の願書は英語で記載する必要はありますが、指定国全てに対し1通の願書で出願することが可能です。
また、基礎出願の出願日から6ヶ月間は「優先権(※)」を主張することが可能ですが、各国ごとに個別出願する場合、原則として、日本の特許庁に優先権証明書を請求し、それぞれの国に対し優先権証明書を提出する必要があります。マドプロ出願の場合、願書に基礎出願の情報を記載するだけでよいので手間が大幅に省けます。
※ 優先権とは、それを主張した場合、その国においても基礎出願の出願日に出願したものと取り扱われる制度です。例えば、基礎出願の出願日が2017年 3月 1日であって、その6ヶ月後の2017年 9月 1日に優先権を主張して外国に出願した場合、その国でも2017年3月1日に出願したものと取り扱われます。
(3) 審査が迅速かつ予測可能
マドプロ出願の実体審査で暫定拒絶通報を出す場合、加盟国は、出願されたことをWIPO国際事務局から通知されてから1年又は1年6ヶ月以内に行わなければなりません。したがって、その期間内に暫定拒絶通報が出されなければ加盟国は出願を拒絶することができなくなるので、出願人は出願商標が登録されるものと判断することができます。
1年とするか1年6ヶ月とするかは加盟国が決めることができます(日本は、1年6ヶ月を選択しています)。
(4) 管理負担等の軽減
商標権は「半永久権」と呼ばれ、更新手続によりさらに存続期間を延長することが可能ですが、各国ごとに出願していた場合、更新手続もそれぞれの国で行う必要があります。マドプロ出願は国際登録日から10年間が存続期間であり、更新手続を指定国全てについて一括して行うことができますので、商標権についての管理・費用・手続に関する負担が大幅に軽減されます。
また、新たにマドプロに加盟した国等に対しても、「事後指定」という手続を通して事後的にマドプロ出願に追加できることが多いです。
3. マドプロ出願のデメリット
(1) 国際登録日から5年間は、基礎出願又は基礎登録に依存すること(セントラルアタック)
マドプロ出願は基礎出願又は基礎登録が必要となる関係上、一定期間、基礎出願等に依存します。
具体的には、国際登録日から5年以内に、基礎出願が拒絶されたり、基礎登録が取り消されるか又は無効になった場合、その範囲で国際登録も効力を失います。
個別出願ではそのような依存性はありませんので、この点がマドプロ出願のデメリットになります。
(2) 商標が同一でなければならないこと
マドプロ出願に関する出願商標は基礎出願等の商標と同一でなければなりませんので、日本と外国で商標の使用態様が異なる場合、問題になることが多いです。例えば、日本では漢字と英文字の組合せの商標を登録し使用していて、外国では英文字のみの商標を使用したい場合です。そのような場合、商標が同一でなければならないマドプロ出願では対応できなくなります。