最近の地域団体商標と今後の展望
地方自治体と「地域団体商標」
日本全国の地方自治体が、地元の経済活性化を目的として、商標戦略をその重要な位置付けとして活動していきています。
その背景には、地域ならではの名産品や特産物など比較的知名度の高いものから次々に「地域団体商標」として特許庁に登録し、「おらが町の独占ブランド」として売り出すと同時に、観光客の誘致にも利用しようという傾向が全国的なムーブメントに発展している現状があるようです。
ここ数年来、全国的に話題となった「地域団体商標」では、沖縄県名産の柑橘系果実として有名な「沖縄シークヮーサー」、福島県双葉郡浪江町の名物「やなみえ焼そば」などが挙げられます。
前者は、もともと全国に知られたものでしたが、正式に地域団体商標となったことで、果実そのものだけでなくジュースなどの加工食品にも商標権がおよぶことから、地域の名産の保護に役立つとして地元は歓迎しています。
また後者は大災害の被災地が獲得した地域団体商標として、これからの復興の大きな原動力になると期待されています。
「地域団体商標」の概要
それではここで、「地域団体商標」の概要について解説しましょう。
「地域団体商標」は、2005年に商標法に制定された新制度で、それまで商標として認められなかった地域の名称と商品(役務=サービス)とを組み合わせた標章(マーク)や図案を、各地方の公共事業体(事業協同組合や商工会・商工会議所・農協など)に権利者を限定して認めるというものです。
たとえば「小田原蒲鉾」は、単に「小田原」という地名と「蒲鉾」という食品の普通名詞が組み合わさっただけの単語なので、これまではどの法人も商標登録をすることができませんでした。すでに一般的に広く使われ普通名詞化している単語を、一民間企業が使用を独占するとなると、著しい社会的不公平となり、一般消費者も混乱するからです。
ところが一方で「全国的に有名な商品名称を地域社会が共有する知的財産として保護すると同時に、地域ブランドとして観光客誘致の目玉として地域活性化に役立てたい」という切実な要望が各地方自治体や地元の有識者・各団体から寄せられていました。
これらの強い要請に応える形で法制化されたのが「地域団体商標」というわけです。地域団体商標は、各地域の公共団体が権利を独占することで、有名な商標を用いた粗悪品の流通を防止するという側面もあります。
すなわち、地域社会全体で地元のブランドを守り育てるという趣旨が込められている制度であるともいえるでしょう。
「地域団体商標」のメリットとデメリット
地域社会としては大きなメリットがある「地域団体商標」ではありますが、すでに全国的に有名になり過ぎている商品(サービス)の呼称が、一地方のみに独占化を認めるとなると、それまで普通名詞として使っていた他地方の企業にとっては少なくない打撃を受けるパターンも出てきます。
実際に、前述の「小田原蒲鉾」については、名称の権利化をめぐって訴訟に発展しました。この事案では結局「小田原蒲鉾水産加工業協同組合」の権利保有が認められ法的には決着していますが、商標の内容によっては、今後も裁判沙汰となるケースが続く可能性は否定できません。
地域団体商標は食品などの呼称だけでなく「伊香保温泉」や「南部鉄器」などのサービス業態の呼び名にも適用されており、「文字を独占化」することの影響の大きさについて、地域の活性化と日本全体からみた公共性との対立にどう折り合いをつけるか、特許庁としても悩ましい問題が出てくることも予想されます。
地域団体商標が制定されてまだ年数も浅いことから、今後の出願とその査定結果が積み重なっていくことにより、次第に同制度のガイドライン的な指標が形成されていくことでしょう。