司法の場に持ち込まれた
「小田原かまぼこ」の商標登録問題
広がり続ける登録商標の範疇
文字や図形あるいはそれらが合体したものに限る」という登録商標の概念に、新しく「音商標」や「色彩商標」などの新しい概念が加わり、2015年4月から特許庁の出願受付がスタートしたことで、各企業においても登録商標を大きなビジネスチャンスととらえられるようになってきています。
登録商標に関しては文字・図形に加えて、1996年に彫像や動く看板など「立体商標」が認められるようになり、この時点で登録商標は二次元から三次元に文字通り「次元が広がった」ともいわれました。そして、音・色彩・動き・ホログラム・位置などの分野が加わり、商標法が時代の流れとともに変容したことは、まさに「登録商標・新時代」の幕開けという趣を感じさせるに十分ではないでしょうか。
この流れは、登録商標に関する世界的な意識の変化によるグローバル化の一端であることはもちろんですが、登録商標をビジネス戦略の最重要課題として掲げるサービス産業の隆盛とIT・ベンチャーの台頭が大きな要因となっていることも見逃せません。すなわち、登録商標に幅広い概念を持たせることが業績アップに直結する第三次産業の要望が、2000年代に入って実現化し始めているといえるのです。
「地域団体商標」制定の意味とトラブル
さて昨今では、新しい登録商標概念といえば、音や色彩ばかりがクローズアップされる傾向にありますが、それらより9年早い2006年4月にスタートしている「地域団体商標」については、意外にも一般にはあまり知られていません。
これは、地域社会の産業発展を目的として制定された登録商標の概念で、それまで登録商標として認められていなかった「地域名称」と「地域商品」を合体させた「地域ブランド」を、地元に定着している商品に限定して商標登録を許諾するという制度です。折からのグルメ・観光ブームが相乗効果を生み、「地域団体商標」を取得する地域団体も急増し、地域社会の発展という目的は十分に達成されつつあるようです。
しかしその反面、「地域団体商標」をめぐるトラブルも少なからず発生しています。
登録商標という「商品名称の独占権」をめぐる業者・団体間の認識の相違は、各事業体の盛衰に関わる問題だけに、それが裁判沙汰に発展することもしばしばです。最近大きく報道された係争事案では「小田原かまぼこ」という地域団体商標をめぐる裁判があります。これは、神奈川県小田原市にある「小田原蒲鉾協同組合」がすでに所有している「小田原かまぼこ」を県内の食品業者が無断使用しているとして、同組合がこの食品業者に対して「小田原かまぼこ」の使用差止めと約5,000万円近くの損害賠償を求めて提訴した裁判です。
注目される「小田原かまぼこ」の裁判
「小田原蒲鉾協同組合」は小田原市にある13の業者が加盟している組織体で、訴えられたのは同じ神奈川県の業者ではあるものの、組合には加盟していない南足柄市の食品会社です。
組合側の提訴事由は、「小田原かまぼこ」の呼称は組合の所有する地域団体商標として登録済である以上、組合不加入の市外の業者が「小田原かまぼこ」の商標を使った商品を流通させるのは組合への権利侵害にあたる、というものでした。これに対し、被告の食品会社は「『小田原かまぼこ』の呼称は、組合側が商標登録する以前から長く用いており、権利侵害には該当しない」と主張しています。
ちなみに、数年前には福岡市で「博多織」という地域団体商標めぐる同じような裁判があり、こちらは訴えられた業者が過去に組合加盟を断られていた事実が判明したこともあり、組合側が敗訴しています。今回の「小田原かまぼこ」の裁判は、登録商標済という独占権を主張する組合側と、地域団体商標の制定前から使用しているという食品会社の「先使用権」とのせめぎあいの様相を呈しているようです。
同裁判は裁判の進展と判決の内容いかんでは、他の地域の同様な事案に大きな影響を及ぼす可能性があり、大いに注目されています。