ヤンマー商標差止め訴訟が敗訴に終わった理由
商品や役務(サービス)は、自社と他社の製品を識別するために、独自のロゴや名称を付けます。また他者の侵害行為からこれらを保護するために、特許庁で商標登録を行うことが一般化されています。
万が一、商標登録されている商品及び役務が侵害を受けた場合には、裁判で争うことになりますが、中には商標の類否判断が難しいとされるケースもあります。過去にヤンマーディゼル社の登録商標である「ヤンマー」について、民事訴訟に発展した商標トラブルがありました。
差し止め訴訟に至る経緯
兵庫県の老舗の食品メーカーであるイトメンは1945年の創業以来、インスタントラーメンを中心に食品の製造販売を行ってきました。1962年には新商品としてインスタントラーメン食品に「ヤンマーラーメン」「やんまラーメン」「ヤンマーのざるそば」「ヤンマーの焼そば」などの名称を付けて販売をしています。しかし、この「ヤンマー」とう名称がヤンマーディーゼル社の登録商標と類似することから、名称表示の差止め請求を受けてしまいました。
イトメンは販売に先立ち、1961年に「ヤンマー」の商標登録を麺類の区分で特許庁に申請しています。この時既にヤンマーディーゼル社は異議の申し立てを提出していますが、特許庁は商標登録を取り下げる理由はないとして却下しています。1964年には「ヤンマー」の商標が麺類で登録されることとなりました。
これを受けてヤンマーディーゼル社は、「ヤンマー」の名称が消費者の混同を招き営業上の利益が阻害されることを理由に、表示の差し止めを裁判所へ提訴しています。しかし裁判所の判断はヤンマーディーゼル社側の訴えを退ける結果となりました。
ヤンマーディーゼル社が敗訴した要因
そもそも裁判での争点である消費者の混同による問題について、全く異なる2つの業態では競争関係になることは考え難いです。ヤンマーディゼル社は、1972年にも裁判を起こしていますが、同様の理由で敗訴が確定しています。おそらくこの件はいくら裁判を繰り返しても結果は変わらないでしょう。
ヤンマーディーゼル社側もこのことについては承知しているはずです。それを踏まえたうえで、どうしても自社ブランドを独占したい理由があったのではないでしょうか。もしも全ての分野で自社の名称を保護するには、複数の区分に商標登録を行う必要があります。これは大手企業が商標登録をする際に用いる手段ですが、より多くの区分に商標出願をすることで、広い範囲で他者を除外できる利点があります。