登録要件を満たさない商標―無駄な出願を防ぐために
出願した商標が晴れて「登録商標」となるには、特許庁の審査官が内容を審査する以前に、商標法が定める「登録要件」を満たしている必要があります。これを知らずに、出願された商標は全て内容の審査をしてもらえると誤解している出願人も少なくないようです。
登録要件を満たさない商標出願で無意味な労力と無駄な経費をかけないように、「登録要件を満たさない商標」を把握しておきましょう。
商標法が定める商標の登録要件
特許庁が審査する商標は、出願から20年経過すると権利が消失する特許とは異なり、商標は一旦登録されれば10年毎に更新可能なので、半永久的な独占使用権ともいえます。しかも商標は特許に比較して出願しやすいという特色があるので、よい呼称や図案などがあれば「とりあえず出願しておこう」という風潮は、ある意味必然かもしれません。
しかしながら、いかに登録をあてにしていない「とりあえず出願」であっても、出願手数料やそのために割く時間や人件費を換算すると、企業にとっても決して無視できる経費ではありません。内容審査に入る前に出願書類の形式審査でオミットされることだけはできるだけ回避したいものです。
それでは「商標法が定める商標の要件」を以下に挙げましょう。
一般的登録要件
普通名詞やありふれた呼称、すでに慣用的に用いられている語句やマークなどは登録商標となりません。また、商品の形状・品質・用途・効能を示すものや、産地や販売する地名などに関しても同様です。さらに、他の商品(役務)と識別できないものは登録商標の要件を満たしていないとみなされ、これらを商標の「一般的登録要件」と呼びます。
具体的登録要件
国旗や国際機関、公共機関の標章などすでに一定の識別がなされているもの、あるいはすでに登録済の商標と同一または類似したものは登録要件となりません。また、商品(役務)の性能や品質を消費者に誤解させるようなものは登録要件から除外されます。これらは「具体的登録要件」と呼ばれています。
登録要件の意図は「識別性」と「混乱の防止」
「一般的登録要件」と「具体的登録要件」の規定を吟味すると、登録商標に必要な概念は「識別性」と「消費者の混乱を防止する」ことに集約されるといってもよいでしょう。登録商標として国家が出願人に独占使用権を付与する以上、その商標はすでに一般的に使用されているものではなく、あらたに個別的な識別力を有するものでなければなりません。そして、登録商標が知的財産権の一部である以上、社会を混乱に導く可能性があってはならない、というのが商標制度の根幹にあるのです。
したがって、これら登録商標制度が謳う社会的意義と目的を無視して、単純に自社の利益を優先したような「とりあえず出願」という安易な行為は厳に慎むべきなのです。ましてや、内容審査の前に書面の形式審査で除外されるような出願が多くなる風潮は、国際的にも真に成熟した産業界とはみなされません。
要件を満たさない出願による商標法への影響
商標出願にまつわる最近の傾向として、流行しそうな言葉や話題を呼んだ単語などを「早いもの勝ち」とばかりに商標出願する企業が少なくありません。商標法では商標を登録する前提条件として「自己の業務に係る商品・役務について使用する商標であること」と規定されています。
すなわち出願人が、出願する商品区分に関する業務を行っていなければ、本来は登録商標の要件を満たさないはずなのです。しかしながら、「業務を開始する計画がある」との説明で追及を回避するパターンが少なくないのが現状です。
特許庁側も怪しいと思われる出願には、事業計画書の提出を求めることがありますが、数の多さに見逃してしまうこともあるようです。このような「脱法行為的商標出願」に対する罰則規定などはありませんが、今後の情勢によっては法規制を求める声が高くなる可能性も高まることでしょう。
社会の健全な発展を目的とする商標法の関連手続において、罰則規定が設けられるような事態だけはなんとしても避けたいものです。商標出願を考えているのであれば、実績のある商標代理士へ依頼することを心がけましょう。