「ナショナル」が「パナソニック」になった理由とは?
ある商品が大ヒットして、その商品の登録商標が有名になり消費者の認知度が高まると、会社名まで登録商標に変更してしまうという実例が日本企業には数多く見られます。一方で「商標と社名は別」と割り切っている企業もまた少なくありません。
今回は超有名企業による社名商標(ブランド)変更の経緯を紹介し、企業社会における「ブランディング」の重要性と判断の難しさについて考察してみましょう。
社名を自社のヒット商標に変更した企業
商品のネーミングが有名になり過ぎて、ついには社名を商品名と同じネーミングに変更した企業は何社もあり、一般によく知られている企業を以下に列挙してみます。
- 「旭光学」(カメラメーカー)→「ペンタックス」(現在はリコーイメージングのブランド)
- 「日本光学」(カメラメーカー)→「ニコン」
- 「巴屋化粧品製造所」(化粧品メーカー)→「丹頂」→「マンダム」
- 「トリオ」(オーディオメーカー)→「ケンウッド」(現在は日本ビクターと合併し「JVCケンウッド」)
- 「早川電機」(家電メーカー)→「シャープ」
- 「富士重工業」(自動車メーカー)→「スバル」
- 「和江商事」(衣料品メーカー)→「ワコール」
以上、この他にも戦前の企業を含めると枚挙にいとまがないほど数多くの企業が社名を自社の商品名(登録商標)に変更しています。そして、これらの企業はメーカーが大半を占めることに気付きます。
これは、消費者動向調査において、商品のネーミングと共にメーカーの社名から受けるイメージが、商品選択のポイントになっていることも影響しているでしょう。商品名がヒットしその商標が消費者に良いイメージを与えているのなら、いっそ会社名も商標と同じにしようという発想が出てくるのはむしろ必然的とさえいえます。
その一方で、社名よりも商標の方がはるかに有名になっても、頑強に社名を変更しない企業もあり、その代表格が殺虫剤メーカーの有名ブランド「金鳥」で知られる「大日本除虫菊」です。同社はテレビのスポンサー表記を「金鳥」で通していることから、正式社名を知らない消費者も多いはずですが、あえて社名を変更しないのは、長い歴史を持つ社名に誇りと愛着があるがゆえなのでしょう。
「松下電器」と「ナショナル」と「パナソニック」
ここ数年で大きな話題となった社名変更は、大手家電メーカー「松下電器」が同社の有名ブランドであり登録商標でもある「パナソニック」に社名変更した出来事です。同社は以前「ナショナル」というブランドを使用しており、このブランドは戦前から1970年代にかけて、著名なトップブランドとして日本中を席巻しており、一時は社名を上回るほどの知名度を獲得してました。ところが、同社の海外進出時にはアメリカで同じ商標がすでに登録されいたことから「パナソニック」を海外ブランドにせざるを得なかったのです。
松下電器は、国内では家電製品を「ナショナル」に、家電以外を「パナソニック」に、オーディオ機器類を「テクニクス」とブランドを複数並立させていた時代もありましたが、やがて全製品のブランドを「パナソニック」に統一し、2008年に社名も変更したのです。立志伝で知られる創業者「松下幸之助」があまりにも有名な人物だっただけに、社名から「松下」の名を外すという英断には、世間から驚きの声が多く上がりました。
浅草雷門の提灯は「松下電器」のままに
「松下電器」を「パナソニック」に変更することは、グルーバル化の現代において、海外事業の拡大を考慮すると、社名とブランド名が同じの方がなにかと都合が良いとの判断だったのでしょう。あるいは、経営の第一線から身を引いた後も、同社に強い影響力を持っていた偉人・松下幸之助亡きあと、故人の業績に頼らず、さらに世界的企業への発展を目指す、という経営陣の心意気の表れだったのかもしれません。
ちなみに、外国人観光客も数多く訪れる「浅草雷門」の特大提灯には1960年に松下幸之助氏が寄進したことが縁で、提灯の下部には「松下電器」と刻印されており、社名が変わってもこの表記はそのままになっています。世界的に有名となった観光名所だけに、ここでは松下翁の偉業を留めようという地元の人々の意思が示されているようです。