商標における分割出願の内容とその意義
「早い者勝ち」の商標出願
日本における特許や商標など工業所有権については、同じ内容であれば一日でも早く特許庁に出願した方を優先するという、いわゆる「先願主義」がとられています。俗な表現だと「早い者勝ち」というわけです。
出願が後になった方が「出願は遅れたが自分のほうが先に使用していた」という理由で無効審判を起こすことは可能ではありますが、それが認められることはまれであり、やはり先に出願した側が有利であることには違いがありません。
商標に関しても、一般消費者に訴求力が高い単語や図案などは、少しでも早く出願しておかないと競合他社に出し抜かれるということで、各企業とも自社商標の早期出願をマーケティング戦略の重要課題としています。しかしながら、急いで出願することは思わぬ逆効果を生むことも忘れてはなりません。それは、出願時の「指定商品区分」またはその一部に不登録事由を含むものがあった場合は拒絶査定となってしまうからです。
分割出願で不利益を解消
商標登録をより確実にしたい場合、分割出願という方法をとることで拒絶査定を回避することが可能です。分割出願とは、出願する商標の指定商品区分を複数に分けて出願することを可能とした制度です。かつて、日本の商標法では「一商標・一出願」が大原則とされ、一つの出願で複数の商品を指定することはご法度とされていました。しかしながら、この原則は業者に対して厳しすぎるとの産業界から声が大きくなったことを受けて分割出願が導入されたという経緯があります。
現在は、商標の出願後であっても分割出願することが可能となっています。つまり、一度出願した商標の指定区分を複数に分割する必要性が出てきた場合に、複数の指定商品区分に分割出願して商標査定の可能性を高めることができるというわけです。
しかも、この場合の分割商標は最初の出願日に遡った日付となる(「出願j日の遡及」)ので、前述のように出願時の指定商品区分の変更の必要が出てきた場合は分割出願することで拒絶査定を免れることもできると同時に、競業他社に対する「先願主義」の優先性も保たれることとなるわけです。
分割出願の大きなメリット
分割出願をするメリットは「出願日の遡及」の他にも、「分割件数は無制限」という点と分割した出願をさらに分割する「孫分割」が認められている点が大きな特徴です。ただし、分割出願には「指定商品が出願の指定商品と同一であること」が要件とされています。なお、国際商標の出願は対象外となっているので外国に商標出願をする際にも注意が必要です。
また、分割出願は拒絶理由の審決事案対象となる場合に限定されています。
以上のように、分割出願の導入によって商標出願手続も格段に簡便化され出願側に大きなメリットをもたらしました。かつては、一度出願された願書をあとから内容変更する場合には「補正書」を提出するしかありませんでしたが、指定商品区分の分割については商標自体ではなくあくまでも手続き上の形式変更であることから、出願人の権利保護という観点で分割出願が認められた経緯があります。
もちろん分割商標制度の内容を正確に把握してさえおけば最初から複数の指定商品区分を決めて分割出願しておけばよいのですが、消費動向の変移が激しい業界においては数ヶ月単位で指定商品のカテゴリも変動することがあるので、企業のマーケティング担当者は、商標出願後も常に分割出願の可能性を考えておく必要があるでしょう。
特に、宣伝効果がより高いと思われる商標の権利化の有無が企業の業績を左右するとさえいわれている時代だけに、商標戦略を重要な課題としている企業では、分割出願をより効率よく活用することも大切といえるでしょう。