「ポケモンGO」の対応機器改造版が「商標法違反」に
商標法という知的財産権を保護する法律が、意外なところで適用され、思わぬ犯罪が明るみになることはよく知られています。頻繁に起きているのが「ニセ・ブランド商品」の摘発です。これらの事件の背景には大規模な犯罪組織が存在していることが多く、捜査の入口として「商標法違反」が用いられることは周知のとおりです。
さてこのたび、なんと改造されたゲーム機器の販売という事件において、首謀者の逮捕理由が「商標法違反」であったことが報道され話題となっています。この事件について解説してみましょう。
任天堂のゲーム機器を改造して販売
千葉県警は、2018年7月に、任天堂のスマートフォン用ゲーム「ポケモンGO」の関連機器「ポケモンGOプラス」を無断で改造してネット販売したとの容疑で会社員の男性を逮捕しました。この逮捕容疑が「商標法違反」だったというわけです。
ちなみに「ポケモンGOプラス」とは腕時計型の機器で、スマホのゲームアプリ「ポケモンGO」を起動するとウェブ画面上に出願するポケモンの各キャラクターたちの居所を知らせる探知機のようなものです。
ポケモン・キャラクターを屋外でキャッチするという新しい形式のゲームは世界中で大ヒットし、発売当初の大ブームは落ち着いたものの、いまだに人気は衰えず子供から大人まで多くのファンを魅了し続けています。
逮捕容疑は詐欺罪でなく商標法違反
今回の事件は、ポケモンGOの人気ぶりに便乗し、自作の改造機器を1個6千円でネット販売して合計180万円の売上を得ていたというものです。普通に考えれば「詐欺罪」に該当すると思われる事件なのですが、今回は意外にも「商標法違反」での逮捕となっています。
一般に「商標にまつわるトラブルは民事案件ではないか」という誤った認識があります。たしかに、すでに権利化されている商標に似たものを商品といて販売する行為は民事案件として裁かれることも少なくありません。
しかしながら、今回の事件は「類似商標」というレベルではなく、偽装作成した商標を改造した商標に付与して販売するという悪質な犯罪行為です。「悪意はなく、たまたま商標が似てしまった」という次元ではありません。過去の刑事裁判で同様の事件が商標法違反として裁かれており、それらは判例として定着しています。
個人による犯行か組織犯罪か
今回の事件については、権利者に無断で登録商標を模倣したと同時に、任天堂のゲーム機器を改造して販売しているので二重に重い犯罪といえます。当然ながら、警察当局も詐欺罪での摘発を視野に入れていると思われます。
今回の件は非合法組織や外国の犯罪組織が背景にいることも考えられることから、立証に時間がかかる詐欺罪よりも先に商標法違反で逮捕したというのが実体かと思われます。手先の器用な個人が正規品を改造し小遣い稼ぎをしようと企んだのか、あるいはバックに大きな犯罪組織が潜んでいるのか、真相はこれからの捜査で次第に明らかになることでしょう。
任天堂がらみの商標法違反事件では、同社の人気ゲーム機「ファミコン」が改造され流通した事件がかつてありました。また近年では東京都内で同社の人気ゲームに登場する「マリオカート」に似せたカートを「マリカー」と称し有料貸し出しサービスを行っていた企業との訴訟で、任天堂側が勝訴するという一件があったばかりです。
ゲームというソフト・ハード共にデジタル機器とネットの普及によって発展した大衆消費財だけに、このような知的財産権を侵害する犯罪行為は今後も増加する可能性があります。特許庁をはじめとする国の行政機関は、「知財犯罪は割に合わない」ということを、社会に強く周知させる必要に迫られています。そして、商標法違反においては、今よりももっと厳しい処罰が求めらているといってよいでしょう。