パロディー商品が法的に許容されるボーダーラインとは?
パロディ商品が流行する時代背景
「パロディ」という単語が市民権を得ると同時に顕在化してきた問題に、いわゆる「パロディ商品」があります。つまり、パロディを広告の手段として使っていた段階から、すでに流通している商品を模倣して、これを「パロディ商品」として売り出す業者が増えてきたのです。既存の商品を真似したものであれば当然違法な「コピー商品」として指弾され、損害賠償の対象となります。これは商品そのものだけではなく、商品の呼称やマークなども、それが模倣であれば商標法違反となり得ます。
しかしながら「これはパロディ商品であり、コピー商品ではない」と主張する業者があり、それではコピーとパロディとの違いは何なのかという問題が表面化しています。そして仮にそれが「パロディ商品」であったとしても、オリジナル商品を模倣したりもじったり揶揄したりした商品の許容範囲の法的根拠はどうなっているのかという、いかにも現代的な疑問点が生じてきているのです。
元来、大衆の笑いを誘い風刺の効果を高めることがパロディの本質だけに、有名商品をパロディ化した商品を見た消費者は「面白い」と感じることでしょう。そして面白さのあまりその商品を購入するに至ります。すなわち現在流通している「パロディ商品」なるものは、まずはパロディとして注目を引き、商品の内容よりもパロディという付加価値を評価させるという、消費者の購買心理をついた商法といえます。
パロディー商品をめぐる裁判の行方
ただ、たかがパロディと笑って済まされないのがオリジナル商品の製造・販売元業者です。オリジナル業者にとって、自社商品をパロディー化した商品は、パロディという一種のジョークを隠れみのに正当なオリジナルにただ乗りして儲けようという不当な商売に映っても仕方ないでしょう。そして実際に、パロディ商品をめぐる裁判沙汰が近年たびたび報道されるようになってきています。最近大きな話題となったのが、スイスの高級腕時計ブランド「フランク・ミュラー」と日本のパロディー商品「フランク三浦」をめぐる登録商標の妥当性についての裁判事案です。
スイスの高級腕時計ブランドとして世界的に有名な「フランク・ミュラー」製腕時計のデザインを真似した上に文字盤に「フランク三浦」というロゴを配置して安価で販売した業者が、「フランク三浦」の商標登録を無効とした特許庁の審決を取り消すように求めた訴訟で、2016年5月に知財財産高等裁判所は「フランク三浦」側の主張を認め、同商標の登録は有効という判決を下したのです。
ただし、この判決をもって当局側がパロディー商品に一定の理解を示したとする見方は早計でしょう。高級商品である「フランク・ミュラー」に対し低価格の「フランク三浦」が消費者を混同させることはないというのが判決の骨子であり、知財高裁がパロディー商品に対する判断を示したわけではないからです。しかしながら、この判決理由では「消費者を混同させないパロディー商品ならOKなのか」と判断され、今後「フランク三浦」にならったパロディー商品があとに続く可能性も指摘されています。
オリジナルの著作権とパロディ作品の表現の自由
オリジナル作品の著作権を侵害しないパロディー作品の条件として、1980年代前半に最高裁が以下の判断を示しています。
1、オリジナル作品とパロディー作品に明確な識別性があること
2、パロディが主でオリジナルが従という主従関係にあること
3、オリジナル作品が有する「同一性保持権(無断改変禁止する権利)に配慮すること
この判決は、オリジナル作品の創造者が持つ著作権と、それを用いたパロディー作品の作者の表現の自由との相反する関係について司法が判断したガイドラインといえるでしょう。しかしながら、これはあくまで創造作品としての著作権における判例であり、社会に流通する商品の登録商標について、パロディー商品が登録を許諾されるボーダーラインはまだ明確に線引きされていないのが実情で、これは欧米先進国においても同様のようです。
これから起きるであろう訴訟の判決結果が判例となり、次第にパロディー商品の許諾基準が確立されるには、まだ年数が必要のように思えます。