曲名、楽曲と商標権侵害の考え方
音商標という概念
平成26年の商標法改正によって、CMに使われるサウンドロゴやパソコンの起動音などの音で構成される商標が新たに認められることになりました。すでに、小林製薬の「ブルーレット、おくだけ」のメロディーが商標として登録されるなど、視覚だけではなく聴覚にも訴える商標の存在の重要性が認識され始めています。
今後のブランド展開にあたっては、音商標の活用も視野に入れていく必要がありますが、ここで疑問となるのが曲名・楽曲の扱いです。企業によっては商品ごとにテーマソングを設定したり、アーティストとタイアップすることも多いですが、曲名・楽曲自体を商標登録することは可能なのでしょうか。
識別力の有無がポイントになる
曲名、楽曲を商標登録できるかは、それ自体に商品や役務の識別力があるかどうかがポイントとなります。一般的に、楽曲を含む著作物のタイトル自体は著作物の内容を示すものであり、出所表示や自他識別の機能はないものと解釈されています。しかし、これをもって曲名を商標権によって保護できないかというと、いくつか例外があります。
ひとつ事例をあげると、昭和50年代に大ヒットした「およげ!たいやきくん」はそのタイトルで商標登録されており、題名(およげたいやきくん)を録音した録音済みテープ・レコード、おもちゃが指定商品・役務となっています。登録上は、たいやきくんの絵柄も含めたジャケットデザインのような商標となっていますが、間接的に曲名も商標として保護されていると言えます。社会現象を起こし、曲名とセットになった関連グッズも販売されるようにまでなると、このような形での商標登録もできるということでしょう。
また、楽曲についても、先ほど述べたように商品CMなどで長年使われてきていて、そのメロディやフレーズを聞くだけで特定の会社・商品が思い浮かぶようなものは商標登録できる可能性があります。音商標の審査は昨年に始まったばかりであり、登録されたものも短いメロディーばかりですが、商品固有のイメージソングのようにひとつの楽曲として認識できるようなものも商標として認められる事例も出てくるかもしれません。一方、特許庁のwebサイトにも記載されているように、単にBGMとして流れているような楽曲は識別力がないとして商標登録することはできません。
これからは曲名・楽曲も商標上の注意が必要
平成26年の特許法改正によって音商標という概念も生まれたこともあり、商標権の範囲外と言われいた曲名・楽曲の分野でも注意が必要になってきそうです。これからは印象的なメロディー、効果音などを自社のCMで使おうと思ったときは、著作権者である作曲家から使用許諾を得るだけではなく、それが同業他社によって商標登録されていないかどうかを確認する作業が生じてきそうです。
また、最近ではアーティスト名・音楽グループ名の商標登録も認められつつあります。ひとつ事例をあげると、175R(イナゴライダー)は一度は拒絶の判断が出たものの、不服申し立てを行い、登録という結果になりました。曲名自体は原則として自由に創作できるものですが、たとえ創作者としての敬意からのものであっても、商標登録されているような著名なアーティスト・音楽グループの名前自体を曲名に採用すると商標権侵害と提起されるリスクがあります。
例えば、「ROLLING STONES」は音声機器を指定商品・役務として商標登録されていますので、吉田拓郎の「ビートルズが教えてくれた」の替え歌として「ROLLING STONESが教えてくれた」といった曲を作って本家ROLLING STONSのアルバムデザインを真似たCDを販売すると商標上の問題が出てくるかもしれません。ここまで露骨なものですと商標法だけではなく不正競争防止法上の疑義も出てくるでしょう。いずれにせよ、グレーゾーン・限界事例に近い面もありますので、不安なときは商標の専門家である税理士に相談するのが良いでしょう。