商標出願における拒絶査定とその対応
商標を登録するためには特許庁に商標登録出願を行う必要があります。通常、出願後4~5ヶ月経過すると特許庁の審査官による審査が行われます。
どのような審査かというと、「法律で定められた拒絶理由に該当するか否か」を判断する審査です。審査における審査官の決定には、登録査定と拒絶査定があります。
今回は、拒絶査定とその対応について見ていきましょう。
商標出願における拒絶査定とは
審査において、審査官が出願に拒絶理由があると判断した場合、まず拒絶理由通知が送られます。拒絶理由は「限定列挙」と言われ、商標法第15条に規定されています。これらの拒絶理由以外の拒絶理由を審査官が作り出すことは認められていません。
拒絶理由としてよく挙げられるのが、「指定商品の品質(又は指定役務の質)などを表したに過ぎない商標」「品質や質を誤認させる商標」、及び、「先に出願した他人の商標と同一又は類似であり、かつ、指定商品等が同一又は類似であること」でしょう。
このとき、いきなり拒絶査定をするのは出願人に酷なので、出願を補正したり意見書を提出したりする機会を与えるのです。
そのような機会を与えても拒絶理由が無くならなかったとき、審査官は拒絶査定を行います。拒絶査定は、原則として審査官による最終決定となります。
拒絶査定不服審判(と前置審査)
拒絶査定になったとき審査官による審査は終了しますが、出願人は拒絶査定不服審判を請求することが可能です。共同で行った出願について審判を請求するときは、共同出願人全員で行わなければなりません。
審判請求されると、3~5名の審判官の合議体が組織されます。審判長による審理指揮の下、審査官が行った拒絶査定が正しかったかどうか、審判請求書及び添付書類等の内容を参酌しながら議論が行われます。
出願人は審判手続が係属している間は、出願内容を補正することができます。具体的には、商標や指定商品・指定役務について補正を行うことが可能です。ただし、それらが要旨変更となるときは、補正が却下されることになっています。
要旨変更については審査基準において詳細に説明されていますが、簡単に言いますと、
①商標の補正は原則として要旨変更(なので、補正できない)
②指定商品・指定役務の補正は、それらを削除する場合や減縮する場合(例 :「衣服」を「シャツ」に補正)以外は要旨変更
となります。
補正が却下されると補正前の内容に戻ってしまいますので、注意が必要です。
なお、特許の場合は審判請求時に補正を行うことにより拒絶査定を行った審査官に再度審査させる「前置審査」制度がありますが、商標の場合はそのような前置審査制度はありません。
拒絶査定不服審判は、原則として書面審理で進められます。書面審理とは、審判請求書や請求の理由などの書面の記載に基づいて行われる審理をいいます。
ただし、法律上は審判長の判断で口頭審理に変更できることになっています。
審判官の合議体による審理の後、審決がなされます。
審決には、
①審判請求は成り立たない旨の審決(拒絶審決)
②原査定を取り消し、審判の請求を認める旨の審決(登録審決)
③原査定を取り消し、さらに審査に付すべき旨の審決(差戻審決)
の3種類があります。
拒絶審決に対しては、出願人は東京高等裁判所に訴訟を提起することができます。東京地方裁判所ではなく東京高等裁判所となっているのは、特許庁の審判が地方裁判所のレベルと同等以上の高度な専門的審理を行っていると認められているためです。
登録審決がなされますとそのまま商標が登録されます。
差戻審決がなされますと審査官による審査が再度行われますが、差戻後の審査官は審決の内容(審判官の判断)に拘束され、審判官の判断に反する結論を出すことはできません。
応答期間
拒絶査定がなされた出願人は、その査定の謄本の送達日の翌日から起算して3ヵ月以内に拒絶査定不服審判を請求することができます。
この期間にはいくつか例外があります。
まず、期間の末日が特許庁の閉庁日(土曜日、日曜日、祝日等)に当たる場合は、翌開庁日が請求期限となります。期間は暦によって計算します。
①月の始め(例えば、6月1日)から起算する場合は最終月の末日(8月31日)をもって満了
②月の途中(例えば、6月15日)から起算し、最終月に応当日がある場合は、その前日(9月14日)をもって満了
③月の途中(例えば、11月30日)から起算し、最終月に応当日(2月30日)がない場合は、最終月の末日(2月28日)をもって満了
なお、3ヵ月の期間を延長することはできません。
分割出願とメリット
分割出願とは、2つ以上の指定商品や指定役務を含む商標登録出願の一部を1または2以上の新たな商標登録出願をすることをいいます。
例えば、第25類の「被服、帽子、履物」を指定商品とする商標登録出願をした場合、「帽子、履物」を指定商品とする1つの分割出願をしたり、「帽子」を指定商品とする分割出願と「履物」を指定商品とする2つの分割出願をするような場合です。
分割出願は、審査中・審判中などに行うことができます。つまり、拒絶査定になった場合は審査が終了していることから、拒絶査定不服審判を請求しない限り分割出願を行うことはできませんので注意が必要です。
拒絶査定不服審判を請求して行う分割出願の例としては、類似する他人の登録商標があって「被服」について拒絶査定がなされた場合に、「被服」を指定商品とする分割出願を行うことが考えられます。
この場合のメリットとして、原出願からは「被服」が削除され、「帽子、履物」を指定商品とする原出願には拒絶理由がなくなることになり、通常であれば原出願は登録されることになります。
一方、「被服」を指定商品とする分割出願は新たに審査が開始され、その審査でじっくり権利化を図ることができます。
また、分割出願は原出願の時にしたものとみなされることになっています。
つまり、原出願が2016年6月1日に行われ、分割出願を2017年6月1日に行ったとしても、分割出願の出願日は2016年6月1日になるということです。
なお、拒絶査定不服審判で「請求は認められない」旨の審決が出された場合において、東京高等裁判所に対して審決取消訴訟を提起するときに分割出願を行う場合、商標法の規定及び判例により、上の例とは逆に「帽子、履物」を指定商品とする分割出願を行わなければなりませんので、注意が必要です。
また、商標を分割することを目的とする分割出願を行うことはできません。
例で説明しますと、“日産リーフ”という商標が出願されている場合、“日産”か又は“リーフ”についての分割出願を行うことはできないということです。
まとめ
創作法である特許法・実用新案法・意匠法と異なり、標識法である商標法に関する商標の拒絶査定不服審判を請求する場合、いくつかの特有の手続を併用して行うことが多いです。
つまり商標法では、先に行われた他人の出願に関する商標が無くなれば、自分の商標が登録になることが多いからです。
例えば、拒絶査定不服審判と併せて他人の商標登録に対する無効審判や取消審判を請求したり、その他人と交渉して商標権を譲り受けたり、商標権を放棄されることにより、拒絶理由が無くなって自分の商標を登録することが可能となります。
商標は、登録するためにいくつもの方法を模索していくという点で、特許などとは違った面白さがあります。