商標の更新期限経過後の対処法
権利に期限がある特許
出願から20年で権利期間が満了となる特許とは異なり、商標は一度登録されれば10年毎に更新し続けることが可能です。
時代とともに古くなる「発明」はあまりに長期間、一個人や一法人に権利を独占化されることで、かえって社会の発展を阻害する要因となってしまうことから特許に関しては出願から20年までという権利の期限が設定されているというわけです。
十数年前にインスタント写真の特許を独占していた米企業が経営破綻して世界的な話題となったことがありました。
同社は確かにインスタント写真を発明した先駆者的企業ではあったのですが、特許ビジネスに安住して新規開発を怠り、特許権が消失してからは他社に追い抜かれてしまった、と指摘されました。
発明に与えられる特許権は強大ではありますが、いずれは権利の終焉を迎えるときがやって来るという厳しいながらも当然の現実があります。
永久権たる登録商標
これに対し、登録商標を一定期間で権利終了となってしまうと、逆に社会的混乱が起きてしまいます。
企業の商標やブランドは、消費者にとって商品やサービスを選択する際の重要な「識別指標」であるために、たとえば「SONY」や「任天堂」の呼称やマークをどの企業も使用してよいとなったらどうなるか、ということを想像すれば、商標が「実質的な永久権」となっていることがよく理解できるでしょう。
さて、永久権たる登録商標ですが、当然ながら更新手続に関しては、一定の期間が設けられており、この期限が過ぎると権利が消失していまします。
ここで、「更新手続を怠った場合はどうなるのか?」という疑問が湧きます。この場合でも慌てる必要はありません。
商標権の存続期間が満了した日の6ヵ月以内であれば、特許庁へ印紙代の追納申請をすれば更新手続きが可能となっているからです。ちなみに、追納する印紙代は通常の更新手数料の倍額となっています。
権利が消失してしまった場合は?
それでは、さらにこの6ヶ月間も経過してしまった場合は、もう商標の権利はあきらめるしかないのでしょうか?実はこの場合でもまだ救済措置があるのです。
商標法21条に「商標権が消滅した場合でも、商標権の存続期間の満了後6月以内に更新登録できなかったことについて正当な理由がある場合、その正当な理由が消滅した後2ヵ月以内かつ商標権の存続期間の満了後6ヵ月を経過した日からさらに6ヵ月経過した日以内の期間であれば、更新登録の申請が可能」と規定されています。
そして、この規定が適応された場合、該当する商標は満了日にさかのぼって更新されたとみなされます。
ただし、この法律で想定されている「正当な理由」とは、たとえば自然災害やそれに準じる「やむを得ない理由」となるので、単に「多忙のため失念していた」などという言い訳は通用しない可能性が高いことを肝に銘じて置く必要があります。
ちなみに「正当な理由」として認められた実例をいくつか挙げてみると、自然災害以外では「突発的な入院による代理人の不在」「事故または退職等による手続担当者の不在」「システムへの誤入力による期限告知の錯誤」などです。
更新手続きのうっかりミスは厳禁
商標の更新時期の半年前には、権利者宛に特許庁から更新手続を喚起する通知が郵送されてきます。
このあたりは自動車免許の更新手続と同様なのですが、通知は一枚の葉書なので、事務担当者がよほど注意しておかないとどこかに紛れて失念していまうということも起こりかねません。
企業の場合、出願時に申請した住所が変更となっていることも多く、うっかり特許庁に住所変更届を提出していなかった場合は、更新手続の通知が届かないこともあり得ます。
登録商標は、企業の顔であり大事なブランドです。企業の知財担当者は、くれぐれも10年毎の更新手続を失念しないよう留意しておきましょう。