商標出願数の増加に伴う近年の傾向
「先進国」の条件たる「知財に対する認識度」
国家が国際的に「先進国」として評価される条件の一つに「知的財産権(知財)の重要性とその法律遵守の精神が国民に根付いていること」が挙げられます。
国の行政機関がいくら違法行為を厳しく取り締まろうとも、肝心の国民が知財を守ることの大切さを認識していない限り、その国がどんなに経済発展していても、少なくとも「知財に関しては発展途上国」という評価をを国際的に下されることでしょう。
米国に次ぐGDP世界第2位となった中国をはじめとして、近年の経済発展がめざましい東南アジア諸国ですが、ほぼすべての国がいずれも「知財途上国」とみられています。
アジア諸国が欧米に並ぶ真の経済圏となるには、それぞれの国々が「知財先進国」となることが条件といっても過言ではないでしょう。
すなわち「先進国とは経済力プラス知財の認識度が高い国」ともいえるわけです。
知的財産権に関する日本の近年の推移
それでは、日本の場合はどうでしょうか?我が国は戦後の1950年代後半から急速な経済発展を遂げましたが、真に欧米先進国と同等にみられるようになったのは、1980年代に入ってからです。
それまでは、現在の中国や韓国同様、メイド・イン・ジャパンのコピー商品やコピー商標が世界中に氾濫し国際社会からかなりの批判を受けていました。これが改善されて来たのは1970年代後半からで、この頃から80年代のバブル経済絶頂期にかけて、知財に関する国民の意識が徐々に向上してきています。
国民の生活が経済的に安定することで、無形財産における権利の保護の重要性にようやく関心が向くようになったともいえるでしょう。さて、知財への認識度が高まるにつれて、商標が持つ重要性が社会的コンセンサスとなったことと、商標のカテゴリーが文字や図形から音や色彩などにまで広がってきたことも合わさって、近年では日本の商標出願件数が増加傾向にあります。
2016年の出願件数は、なんと14万件を超えており、昨年よりも1割強も増えています。つまり、現在の日本では毎月約11万件以上の商標出願が行われていることとなり、実に膨大な数の商標が出願されていることに驚嘆させられます。
この件数は、現行法制下では過去最多記録であり、知的財産支援制度の導入も相まって、主に中小企業からの出願が増加しており、中小企業に限れば前年比の2割強とされています。
ブランドイメージの海外進出
インターネットの普及により、自社ブランドを前面に出して海外進出の柱とするベンチャー企業が増えていることと、戦後の一時期には粗悪品の代名詞だった「メイド・イン・ジャパン商品」が、今や高品質の代名詞に180度転換したという時代の流れも見逃せません。
たとえば、80年代後半から90年代にかけて急速に成長した日本の小売業に「ユニクロ」「無印良品」「ダイソー」などがあります。日本国内では「安価な商品」として人気を博したこれらの店舗が、東南アジア諸国では「日本生まれの高品質な商品」としてブランド化しているのです。
また、「一蘭」「一風堂」などのラーメン店や「COCO壱番屋」「GOGOカレー」などのカレー店、「ローソン」「ファミリーマート」などのコンビニなどは、現地風にカスタマイズされずに、日本式のメニューと接客スタイルがそのままブランド化して諸外国で受け入れられています。
これは、アニメなどで広がった日本文化そのものに、諸外国の人々が高いブランド価値を見い出した結果といえるかもしれません。
トヨタ・日産・ホンダ・ヤマハなどの自動車・バイク分野において高い評価を受けていた日本の「高性能で安価」というコストパフォーマンスの良さがサービス業にも拡大し、それらがブランド化することで、商標出願が一気に増加したと分析することも可能でしょう。