人気ゲーム「艦これ」の商標をめぐる騒動
「艦これ」の略称で大ヒットとなったブラウザゲーム「艦隊これくしょん」ですが、このほど意外なところから商標トラブルが巻き起こり大きな話題となっています。どのような分野であれ、全国的なヒット商品には必ずといってよいほど「登録商標」がつきまといます。
多くのユーザーに知られた名称を独占・権利化することで莫大な権益が発生します。必然的に権利者は常に模倣や剽窃のリスクに晒されることになります。今回の「艦これ」の商標トラブルがどのような経緯で発生したのか、その舞台裏を覗いてみましょう。
一大センセーションを巻き起こし巨大市場に
現代の一大ゲームムーブメントの先駆けとなる「ファミコン」が登場して約35年。家庭用ゲームのハードとソフトの需要は2018年の段階で世界のゲーム人口23億人、市場規模はおよそ25兆円の売上に達すると予測されています。日本国内に限定しても2017年の統計で売上2,878億円に達し、前年比約122%もの伸びを見せています。そして日本では毎年、ゲームをやらない一般層も「名称だけは知っている」という大ヒット作品が誕生しています。
2013年にブラウザ版として発表された「艦隊これくしょん(艦これ)」もそのヒット作のひとつで、発売以来一大センセーションを巻き起こし、その後漫画・アニメ・小説・ファンブック・音楽CDなど多種多様なメディアミックス商品へと広がり、その勢いは2018年になっても衰えをみせず、「艦これ」は巨大市場を形成するに至っています。
同業者が広告動画で商標権を侵害
「艦これ」は角川ゲームスが開発し、現在はDMM.comラボが発売元となっており、「艦これ」の商標も同社が登録しています。そして、2018年5月31日付けにてDMM.comラボは「艦これ」に登場するキャラクターの呼称である「艦娘(かんむす)」が他社のゲームにおいて無断で使用されていることを公表しました。同社は「艦これ」と共に「艦娘」も商標登録済であることから、無断使用は商標法違反に該当すると主張しています。
「艦これ」というゲームは戦時中の艦艇を美少女キャラに擬人化した一種の「育成シミュレーションゲーム」で、勇ましい戦艦や空母などの無機質な艦艇群が可愛らしい少女に姿を変えて戦闘するという意表をついたアイディアとゲーム自体の面白さが受けて大ヒットソフトとなったものです。
今回、商標法違反との指摘を受けたのは、Yostarという会社で、同社が運営するスマホゲーム「アズールレーン」のWeb版告知動画で「艦娘」の表記が使用されていたということでした。「アズールレーン」は「艦これ」の大ヒットに影響を受けて誕生したソフトのようで、同ソフトには「艦これ」と同じような艦艇の美少女キャラが登場し、その呼称に「艦娘」の表記が使用されていたとのことです。
危機管理体制の脆弱さが招いたトラブル
DMM.comラボ側の公表を受けてYostar側は素早く反応し、6月3日に「艦娘」の商標を無断で使用した事実を認め謝罪の文章をWeb上にアップしました。同社によれば、かかる無断使用の件は宣伝動画公開直後にスタッフが気付き、すぐに別の動画に差し替える処置をとっており、他の宣伝材料についても全て精査した上で問題のある箇所は配信を停止した、としています。すなわち、広告担当スタッフが「艦娘」がすでにDMM.comラボの登録商標となっていたことを知らずに用いたことによるミスだったことのようです。
このようなミスは商標法に疎いスタッフならば犯しやすいミスであり、管理者が事前にしかるべき指導を徹底し、なおかつ動画制作の時点で厳重にチェックしておけば防げたはずです。その意味では、Yostar側の危機管理体制があまりにもずさん過ぎた結果として起きたトラブルといえるでしょう。
Yostar側としては幸いなことに、現時点でDMM.comラボ側が損害賠償などの訴訟を起こす構えはみせていないようです。ただし、この件をめぐっては、両ゲームのファン同士がSNSなどで「熱い場外戦」を演じているようです。ゲームのことでエキサイトするのは、ゲームの画面の中だけにしてもらいたいものです。