兵庫県「出石そば」も地域団体商標へ
2005年の商標法改正により導入され、2006年4月から受付が開始された「地域団体商標」も、2018年で発足から13年目となり、各都道府県の名産物が次々に登録されており、一般への認知度や関心度も年毎に増してきています。
今回は2018年の初頭に公表された最も新しい地域団体商標「出石そば」について紹介しましょう。
地方活性化に結びつく「地域団体商標」
地域の名産が登録されたとのニュースが流れるたびに「地域団体商標」への関心が高まってきたことは、消費者が商標制度の意義と意味を知るよい機会となっており、同制度の効果的な宣伝にもなっていることは大変喜ばしい現実です。
「地域団体商標」の制度化以前は、登録商標の世界などはあくまでも民間企業の領域であったことを考えると、地域社会の共有財産となる「地域団体商標」は登録自体が全国的なニュースとなることで、本来の目的である「地域社会の発展」に、登録のスタート時点から貢献しているともいえるでしょう。
さて、毎年多種多様な「地域団体商標」が登録されたと報道されるたびに「あの県にそんな名産があったのか」とか「あの名産なら登録されても当然だ」という感想を抱く人が少なくないことでしょう。
あるいは「あれが登録されるとは意外」というマイナスの印象を持つ場合もあるでしょう。仮に評価がマイナスであったとしても「あの地方のあの品が登録されるのなら、うちの名産品も…」となればプラスに転じることとなり、日本全国が各地方の「地域団体商標」で埋め尽くされる日も、そう遠くないかもしれません。
「出石そば」が生まれた歴史的背景
ところで、2018年の初頭にも、新しく「地域団体商標」として登録された名産品が報道され、大きな話題となりました。それが兵庫県の出石(いずし)地方の「出石そば」です。
「出石そば」は、江戸中期に信州・上田藩(現・長野県)から丹波・出石藩(現・兵庫県)に伝わった食べ物で、幕末期には小さめの皿(手塩皿)に盛り付けられるようになり、その後当地の陶磁器として「出石焼き」が有名になるにつれて、多様な絵柄が描かれた出石焼きの小皿数枚に盛り付けた出石そばを一人前として、同じく出石焼きの徳利に入れた独自の出汁と器に入った薬味と共に食卓に並べる現在のスタイルが確立したのが昭和30年代といわれています。
「そば」といえば和食では「うどん」とならぶ麺類のスタンダードで、さぞかし多くの「地域団体商標」が登録されていることだろうと思いがちですが、登録済みの名産麺類を挙げてみると意外にも「幌加内そば(北海道)・米沢らーめん(山形県)・和歌山ラーメン(和歌山県)・五島うどん(長崎県)・沖縄そば(沖縄県)」の5点のみで、そば粉を用いた日本そばは「幌加内そば」のみだったことから、このたびの「出石そば」で2点目となったわけです。
登録の後押しとなった「独自の食文化」
関西地方といえば麺類では大阪のうどんが有名ですが、そばといえばやはり出石そばで、出石地方では50軒にもおよぶ出石そばの店が軒を連ねています。
他の地方には見られない盛り付け方法が出石そばの特色で、日本そばは「ざるそば」かどんぶりに入ったそばしか食べたことがないという人にとって、出石そばのスタイルは興味深く映るようで、食べ方にも独特の「作法」があることで知られており、正にこの地方の「食文化」を象徴する名産料理として名を馳せています。
今回の「地域団体商標」の登録にとって、「出石そば」の呼称は「出石皿そば協同組合」の承認なくして名乗れなくなったことは「まがい物の排除」という観点と観光客へのアピールの2点に大きな効果が期待できると、地元では歓迎ムードに包まれているようです。
これまで「出石そば」は必ずしも全国的な知名度があったわけではありませんが、「出石そば」という郷土料理そのものと同時に、古くから伝わる地域の伝承形態が容器や食事作法も含む「食文化」を形成しているとの評価を得たものと推察されます。今後、別の地域の出願にも大きな影響を及ぼすかもしれません。