中小向け保険制度
海外知財訴訟費用保険制度とは?
高まる海外での知財訴訟リスク
経済のグローバル化が進む中で、海外展開を目指す中小企業が増えています。これに伴って、海外での特許・商標の出願件数も増加していますが、同時に知財係争に日本企業が巻き込まれるリスクも高まりつつあるのです。
例えば、特許庁が公表した中小企業向け海外知財訴訟リスク対策マニュアルにも、展示会に出展した製品に使用している技術やデザインが第三者の特許権や意匠権を侵害していたとして損害賠償を請求されたという事例が紹介されています。海外展開が身近になる中で、中小企業においても海外での知財訴訟リスクに備えていくことが求められています。
海外での知財訴訟は係争費用が高額になることも
海外での知財訴訟となると、手続き費用のほかに現地の知財法令に精通した弁護士への依頼費用などで係争費用が数百万円単位にのぼることも珍しくありません。商品・サービスのビジネス展開に投資を集中しなければいけないスタートアップ段階で係争に巻き込まれると、費用負担の関係でビジネスプランそのものを見直さなければいけない事態に陥ってしまうことも危惧されるところです。
このような訴訟リスクに対して十分な備えがないと、自社の知財に関して正当な権利を主張することもできず、結果として敗訴、事業撤退に追い込まれることもあります。一方で、大企業と比較して資本が乏しい中小企業にとっては、万が一のための費用を常備しておくというのも難しいところです。
特許庁が中小企業向け海外知財訴訟費用保険制度を創設
今後、中小企業の海外展開はさらに進展していくものと見込まれています。中小企業側から見ても、少子高齢化・人口減少が進む日本市場だけではなく、海外市場も視野に入れていかないと生き残りも難しい時代になっています。
政府全体で中小企業の海外展開を推進していますが、この推進策のひとつとして上がっているのが海外での知財訴訟リスクの軽減です。特に注目を浴びているのが、6月8日に特許庁が創設を発表した「中小企業向け海外知財訴訟費用保険制度」です。
日本で初めてとなる海外での知的財産訴訟費用を賄う保険制度であり、中小企業が海外で知財侵害の係争に巻き込まれた場合のセーフティーネットとして機能することが期待されています。
保険の掛け金が半分に
特許庁が創設した中小企業向け海外知財訴訟費用保険は、中小企業が海外で知財侵害で訴えられた場合に弁護士相談や証拠調査などに必要な金額を保険金として支払うものです。保険の対象地域がアジアに限られているのが難点ですが、国から保険の運営団体に補助金が入っているため保険の掛け金が半分に抑えられるというメリットがあります。アジア地域への海外展開を目指している場合は、活用を考えてみると良いでしょう。
保険の支払限度額は1訴訟あたり500万円とのことであり、訴訟に関する費用の大半をカバーすることができます。一点注意が必要なのが、訴訟で敗訴になった場合に生じる損害賠償金については保険金の対象にならないという点です。新興国には法体制が未熟な面があるほか、実質的な内国民優遇策をとっているところもありますので、保険に加入しているからと安心・油断せずに、自社の権利を正当に主張できるように対策をとっていくことが重要となります。
保険の窓口は全国規模の中小企業団体
中小企業向け海外知財訴訟費用保険の窓口は、全国規模の中小企業団体(日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会)に設けられています。保険への加入条件のほとつとして、団体の会員であることを求めていますので、これを機会に中小企業団体への加盟を検討されてみるのも良いでしょう。団体に支払う会費負担が気になる方もいらっしゃると思いますが、保険料の半額補助などそれを補って余るだけのメリットがあります。