不正改変OSのPC販売会社が商標法違反で摘発
商標など知的財産権をめぐる事案は最近頻繁に発生しており、事案が報道されるたびに、「またか」というのが正直な感想です。しかしながら、2018年2月に報道された「不正改変OSのPC販売による商標法違反事件」には、外国企業の海賊版やコピー商品の蔓延に慣れた日本企業にも驚きの反応が見受けられました。商標法違反行為が凶悪犯罪に発展してしまった今回の事件の病根をたどってみましょう。
巧妙な凶悪犯罪摘発の第一歩か
今回の事件は商標法違反行為での摘発ではありますが、その実相は国際的犯罪組織によって巧妙に仕掛けられた重大犯罪の一端が判明したものだけに、単なる法令違反にとどまらない深刻さが見え隠れしています。2018年1月に逮捕されたのは、名古屋市にあるIT関連企業「ビレイ」の経営者らです。
同社がマイクロソフト社のOS「ウィンドウズ」を不正に改変したパソコンを販売したことにより、マイクロソフト社が所有する「ウィンドウズ」の商標権を侵害したという商標法違反容疑が逮捕理由となっていました。
これだけならよくある事案なのですが、この不正改変OSを仕掛けた黒幕に海外の犯罪組織の陰がちらついており、美容院に納入されたパソコンを不正にアクセスして遠隔操作し、美容室の銀行口座から預金を犯行グループのネットバンキング口座に送金したことが分かっています。つまり、今回の摘発は、他人の口座から預金を不正に奪い取るという凶悪犯罪につながる捜査の入口に過ぎないという点に事件の複雑さが露呈しています。
不正パソコン販売会社の社会的責任
被害金額は実に3千万円以上にも上っており、犯行グループの逮捕はもちろんのこと、「ビレイ」がどこまでこの犯罪を認識していたのか、すなわち同社が預金強奪の共犯的立場だったのか、それとも販売したパソコンが同社が気付かないうちに犯行の「中継機器」として利用されたのかが焦点となります。
逮捕された「ビレイ」の経営者や幹部たちは、一様に「OSの改変は社員が勝手にやったこと」として犯行への関与を否定していますが、同社は美容院向けのソフトをインストールしたパソコンを西日本地区の美容院に販売しており、「一つのOSを複数のパソコンで共有できる」という宣伝コピーにより、千社以上の取引実績を誇っていました。
通常、ウィンドウズの正規版OSではアクセス可能なのはパソコン一台のみですが、複数の店舗を持つ美容院などは何台ものパソンコンから一つのOSに同時アクセスできることは大変魅力であり、販売する「ビレイ」側も、このOSが不正改変された違法なものであることは十分認識していたはずです。
したがって、ウィンドウズのロゴを無断で使用した商標法違反については、まず間違いなく有罪となることでしょう。さらに、違法な商標を付けたまがい物の商品を顧客に売りつけたということで、今後捜査が進めば詐欺罪に問われる可能性もかなり高いといえます。
21世紀型の「IT犯罪」への警鐘
納入先の美容院側からは「パソコンが異常に重い」との苦情がいくつも寄せられていたとのことで、「ビレイ」側が、このとき即座に適正な対応をとってさえいれば、被害の拡大は未然に防げたかもしれません。ビレイは結果的に自ら凶悪犯罪に加担したことになり、同社の責任は重大だといわざるを得ません。今回の事件は、不正に改変したOSで売上を伸ばしながらクレームは放置、という利益優先主義の企業が海外の犯罪グループから都合の良い「中継基地」にされてしまった、という構図のようです。
インターネットの特性を悪用し、クリックだけで大金を強奪するという、まさに21世紀型の「IT犯罪」であり、パソコンを業務で利用している企業にとっては大きな警鐘となる事件です。そして、ブランドコピー商品の摘発の第一歩として捜査当局が用いる「商標法違反」での逮捕劇が、このような犯罪にも適用されたことが印象的です。現金強奪という凶悪犯罪での立件は容易ではなく、そのための証拠固めも困難な場合が多いのですが、商標法違反容疑ならば比較的簡単に犯罪が立件できることから、犯罪捜査の突破口としてよく用いられている手法なのです。