「にせドラえもん」、中国の知財裁判所が権利侵害を認定
相変わらず中国発の知的財産権(知財)問題が世間を賑わせています。日本では最近特に著作権や登録商標に関わる事案が多く報道されており、日本企業の大切な知的財産を外国企業に侵害されていることに大きな憤りを感じる日本人も少なくないようです。
数年前には中国の遊園地にディズニーや日本の漫画・アニメなどのキャラクターや自治体のマスコット・キャラ(ゆるキャラ)を模倣した着ぐるみがあることが報じられ大きなニュースになったこは記憶に新しいところです。
さてこのように知財に関しては遅れているといってよい中国で、このたび日本の有名アニメ・キャラ「ドラえもん」に関する裁判の判決が下され注目を浴びました。今回はその内容と経緯を追ってみましょう。
東南アジアで絶大な人気を誇る「ドラえもん」
中国の「にせドラえもん裁判」とは、数年前にある中国・福建省のスポーツ用品会社が、日本の「ドラえもん」そっくりなキャラクターに「機械猫」という名前を付け、2012年に商標出願しこれが認められ2015年に中国国内で商標登録していました。
「ドラえもん」は中国を含む東南アジア圏で絶大な人気を誇るアニメ作品で、特に2015年に中国本土で公開された「STAND BY ME ドラえもん」は、それまでの中国での劇場アニメ映画の興行収入記録を塗り替える大ヒットを記録しました。
日本製アニメは欧米諸国でも人気が高いのですが、「ドラえもん」は欧米ではそれほどヒットしておらず、東南アジアでの人気ぶりが余計際立っています。「ドラえもん」は現代の日本の庶民の家庭を背景にしているので、スポーツ・格闘系や忍者ものなどのジャンルよりも、現代日本人の生活習慣に親和度の高い東南アジア諸国の方がより身近に感じられるせいかもしれません。
日本の平凡な家庭の少年が、仲間たちと共に「ドラえもん」が繰り出すさまざまな未来の道具に驚き、劇場映画では派手な冒険をするストーリー展開が、国境を超えて各国の子どもたちのハートを掴んでいるからなのでしょう。
「知財後進国」との批判を受ける中国の事情
これだけの有名キャラとなると、前述した遊園地の着ぐるみキャラのみならず、今では「コピー大国」と揶揄されるほど模倣品が出回っている中国だけに、庶民に人気の「ドラえもん」を放っておくはずがありません。玩具や菓子などで「ドラえもん」をコピーしたデザインが出現するのは避けられない現象ともいえます。
しかしながら、そのようなコピー・キャラを堂々と商標出願し、国の行政機関が登録を許諾する、という事態となれば話は別です。本来、違法コピーを厳しく取り締まらなければならない行政側が商標登録を認めるということは、違法なものに公的なお墨付きを与えることになるからです。これでは「中国は知財後進国」との批判を浴びても仕方ないでしょう。
登録が覆った「機械猫」
商標登録された「機械猫」は、どこをどう見ても「ドラえもん」のコピーであり、オリジナリティのかけらもありません。中国本土で日本の「ドラえもん」作品の使用権を正式に取得している企業が、この商標に対し、北京の知的財産権法院(知財裁判所)に提訴したのは当然といえます。そして同法院は2018年5月に「機械猫」はオリジナルの「ドラえもん」を著作権侵害にあたり、商標登録は無効であるとの判決を下しました。
日本人にとっては当然すぎるほど当然の判決であり、むしろ「機械猫」がなぜ商標登録されてしまったのかを不審に思う人が多いはずです。「機械猫」が出願された2012年の時点では、「ドラえもん」はすでに中国でも知られてはいましたが、劇場アニメはまだ未公開で、商標の審査制度においては「著名なキャラクターにあらず」と判断された可能性があります。
それが2015年の劇場アニメ大ヒットによって登録を覆すことになったと考えられます。今回は中国企業同士の係争でしたが、今後日本企業が提訴した場合に今回の判決がどのように影響するか注目されます。