キャッチフレーズの商標登録と実例
キャッチフレーズの商標登録はハードルが高かった
商品の宣伝、訴求、差別化に役立つものとして、キャッチフレーズがあります。 特に、商品の特徴や利点を端的に表現したものについては、商品名以上に消費者の頭に残り、それを聞くだけで購買意欲をかきたてられることもあるくらいです。
魅力的なキャッチフレーズを思いついた、予想していた以上の広がりを見せた、このようなときにこれを商標として登録・保護できないかと考えることもあると思います。しかし、これまでの商標制度のもとでは、原則としてキャッチフレーズを商標登録することは難しいものでした。
なぜ、商標登録が難しかったかというと、キャッチフレーズのような標語自体には宣伝広告の一部にすぎず、それだけでは商品の識別力を有さない、商標としての登録要件を満たさないという解釈に立っていたからです。
たしかに、例えば節約グッズの宣伝文句として「上手に節約」というキャッチフレーズを使っていたとしても、この言葉だけでは商品を識別することは難しいでしょう。一方で、独創性にあふれて、商品の識別力を有するキャッチフレーズもあるところであり、多くの商標出願者と特許庁で議論になり、知的財産高等裁判所の判断も分かれていました。
キャッチフレーズの商標登録の道が拓かれた
商標出願者と特許庁の間で問題が頻発していた最大の理由は、登録をしようとするキャッチフレーズが単なる標語なのか、識別力を有する(商標の登録基準を満たす称呼)ものなのかの判断基準があいまいだったということに尽きます。
近年、このような問題を解決し、出願者の予見可能性を高めていこうという機運が高まったこともあり、特許庁では従来の商標審査基準の改定に着手し、ついに2016年4月に新しい商標審査基準の適用が始まりました。新基準では、商標登録ができないものの要件を明確にし、結果としてこの拒絶要件に該当しないキャッチフレーズについては、商標登録の道が拓かれたのです。
キャッチフレーズの審査基準
新しい商標審査基準では、商標登録の拒絶理由のひとつであり、キャッチフレーズの商標登録のハードルとなっていた「識別力のないもの」の要件を明確にしています。 具体的には、その言葉が商品や役務の説明にしかすぎないこと。
例えば、ウェットティッシュに「手を手軽にきれいにする」という言葉を付しても、それは商品の説明にしかならず、識別力は認められないことでしょう。 次に、その言葉が商品や役務の特性や優位性を表したものにすぎないこと。
またウェットティッシュを例にしますが、「箱型で詰め替えができる」という言葉を付しても、それだけでは識別力は認められないということでしょう。 そして、商品や役務の品質、特徴を簡潔に表したことすぎないこと。
ウェットティッシュに「ノンアルコール・無香料」と付け加えても、それは単に商品の品質を表しているにすぎないということでしょう。 つまり、裏を返せば、単なる宣伝広告としての効果だけではなく、そのキャッチフレーズ自体が造語などとしても認識できる場合には、この要件に該当しないので、商標として登録できるようになるということです。
例えば、箱型のウェットティッシュという商品であれば、片手の指先のみで蓋を開けられるということを造語的に表現した「片手でポン!」といったキャッチフレーズであれば商標登録の可能性があるということです。現に、このキャッチフレーズは新基準適用前ですが、ユニ・チャームが商標出願を一度は拒絶されながらも、最終的には登録にまで至ったものです。このような言葉の新規性、独創性がひとつの鍵となってくるのでしょう。
キャッチフレーズを上手に使うことによって、商品のブランド力を飛躍的に高めることができますし、継続して使うことによってイメージを定着させることもできます。今回の商標審査基準の改訂は、企業や商品のブランドイメージ構築に向けた追い風になりそうです。
キャッチフレーズと思われるものでも、登録できている商標
商品「紙製手ふき」等に対し、商標「MOONY KIDS ムーニーキッズ おしりスッキリ流せるシート」で登録されているものが登録されています。
また商品「米」に対し商標「クロネコヤマトのいつもつきたていつものお米」で登録されている例もあります。
この2つの例のうち「おしりスッキリ流せるシート」「いつもつきたていつものお米」部分は、商品のキャッチフレーズと言ってよい部分です。しかしながらこの二つの商標は自他商品識別機能を有する「ムーニー」「クロネコヤマト」の文字を含んでいます。
また商品「印刷物」等に対し商標「コミュニケーションはキャッチボールです」や、商品「猫用毛球治療在」に対し「いつも、いつまでも元気 うちの子 想い」や、サービス「リフォーム工事」等に対し「いつも一生懸命。ただ、それだけです。」等が登録されています。
これらの商標は文字の中に自他商品を識別するような他の商標を含むものではありませんが、その構成の中に図形を含んだ商標です。ですからこれらの場合、文字の部分はキャッチフレーズと判断されても、その他の図形部分に自他商品識別機能を有すると判断されたため登録できたものと考えられます。このように、キャッチフレーズを含んでいるものであっても、他の要素を加える事で全体として自他商品識別機能を有すると判断できる商標は登録が可能です。