「緑健青汁」不使用取消訴訟における知財高裁判決
特許・実用新案・意匠・商標を規定する4法は、かつてはまとめて「工業所有権」と呼ばれていました。しかし、サービス業が増えたことや商標の商品区分にも「役務」が加わったことなどから、現在は「知的財産権」と呼称されています。
そして、これら知財に関する係争を専門的に裁く法廷が「知的財産高等裁判所(略称:知財高裁)」で、「東京高等裁判所」の特別支部として設置されています。なお、一般の裁判所での「判決」にあたるのが知財裁判所での「判決」です。最近この「知財高裁」にて興味深い判決が出たのでその内容を要約し考察します。
登録商標の共有企業が起こした裁判
「知的財産高等裁判所第4部」において争われた裁判に『「緑健青汁」不使用取消判決』があります。係争事案が多くカテゴリーも多岐にわたる商標だけに、その審判制度はかなり複雑に構成されており、商標の査定結果について争う査定系審判と商標件の帰属を争う当事者系審判に大別されます。
今回の「緑健青汁」に関する係争は、「緑健青汁の商標をB社と共有していたA社が2014年1月に「緑健青汁」の商標は使用継続実績がないことから、商標登録の取消しを求めて特許庁に審判を請求しました。これを審理した特許庁は2017年登録商標の取消しを判決したのです。しかし、この結果を不服としたB社が原告となり2017年5月に判決取消しを求める訴えを起こし、知財高裁にて審理が行われていたというのがおおまかな経緯です。
3年間使用実績のない登録商標
この係争で知財高裁が2018年1月15日付けにて下した判決は「原告の請求を棄却する」というものでした。すなわちB社がA社と共有していた「緑健青汁」の登録商標は、特許庁の判断を支持し、改めて商標登録の取消しを追認したということです。判決理由について裁判長は「商標法50条」の規定を挙げ、「緑健青汁」の登録商標は審判請求の日を起点として過去3年間の使用実績が認められないことから、同法同条文に従って登録取消しは妥当との判断を下したわけです。
商標法では、該当する商標を使用した実績のない登録商標について、3年間の使用実績がないものに対しては、誰もが登録取消しの審判を請求する権利があると定めています。登録商標は10年毎に更新が可能な「実質的永久権」だけに、その商標が使用されていないならば、第三者であっても登録取消しを請求できると規定しているのです。
登録商標とは、社会に流通する商品や役務に付与するロゴマークや図形などの権利保護のために設けられた制度なので、一旦権利を確保したものの、登録後3年間以上使用されていない商標については、登録を継続する価値がないというわけです。この条文は、単に権利の所有だけを目的とし、登録後に権利を売却して儲けるという、いわゆる「商標ブローカー」による「とりあえず出願・登録」を防ぐ目的もあります。
登録商標を共有所有するリスク
今回の「緑健青汁」をめぐる係争において、原告であるB社は同商標の使用実績を示す証拠資料として、「緑健青汁」の広告が記載された商品カタログや同社が発刊した雑誌を提出しましたが、裁判所は、これらが商標法の定める3年以内の「要証期間内(証明を必要とする期間)」に不特定多数の消費者に向けて配布された事実が確認できないとして、原告側の主張を退けました。
また、本商標が原告と被告の共有であるにもかかわらず、その一方がもう一方の意向に反して取消し請求をすることについても違法性はないとの判断を下し、今回の判決となったものです。
当初は登録商標を共有する仲間であった両社が、なんらかの理由で対立したことが今回の「不使用取消審判」に至ったものと推察されますが、知財高裁ではそのような経緯には関係なく、法廷に出された証拠のみを審理して今回の判決が導かれたと判断できます。複数の企業が登録商標を共有する際には、将来においてこのようなトラブルが発生することがあることを、企業の知財担当者は十分に認識しておくことの重要性を感じさせる係争事案ともいえそうです。