アルコール飲料のブランド価値
昨今、各企業の自社商品の商品販路戦略において、ブランドイメージの確立の重要度が日ごとに高まってきています。特に、消費サイクルが早い食品関連商品においては、消費者側に「○○なら、やっぱり△△」というブランドイメージを定着させることが、安定した供給を確保しロングセラー商品を生み出す大きな要因といってよいでしょう。
多種多様な食品類の中にあって、ブランドイメージの浸透に各企業がしのぎを削っている分野に「アルコール飲料」があります。日本では1990年代のバブル経済最盛期頃から「地酒・地ビール」などのブームが巻き起こり、同時にそれまで一般消費者には手が届かない高級品というイメージがあった地方産ワインに関しても、世代を問わず注目されるようになったのです。
マスコミにも地方のアルコールブランドがたびたび取り上げられるようになり、それまで一般にはほとんど知られていなかった地方のアルコールブランドに関心の目が集まりだしたという流れがあり、それは一過性のブームに終わらず、2000年代に入ってからはこの風潮がすっかり定着した感があります。
明確化される登録商標の基準
このような地方産のアルコール飲料ブームは村や町おこしに直結し、地方の活性化にも貢献大とする見方が広まり、それまでは地域名称が付いたブランドだけに商標登録にハードルが高いといわれていた商標法の改善を訴える地方からの声が日増しに高まってきていました。
さらに、日本発のブランドが世界的に高い評価を受ける時代となり、中国では日本の地域名称を勝手に商標登録するという事案が相次ぎ、地方ブランドの保護と輸出拡大という観点からも国家的に無視できない情勢となってきました。
以上のような時代背景のもとに、特許庁は酒類および産地名の審査基準を明確化し、その新基準を2017年4月より施行させることを2016年5月に公表しました。新基準においては、現時点で使用が認可されない名称を明記することで、全国的な知名度がなくても産地名称が付いた優良な商品の商標登録を推進しようという趣旨に基づくものです。同時に外国での模倣を予防し、ジャパンブランドの海外進出の道を拓く効果も期待されています。
たとえば現在、フランスのシャンパーニュ地方で生産されたものだけが「シャンパン」を名乗ることができ、ワインの「ボルドー」も同様にボルドー産に限定されています。さらに日本においても、2013年7月からは山梨県産以外のワインの商標に「山梨」の地名を入れることはできなくなっています。これらの実例を、さらに無名の商品にも拡張しようというわけです。
審査の明確化が地域振興と輸出拡大に
このように、各地域の名産アルコール飲料の商標出願の際に審査基準を明確化することで、地域振興と同時に将来の商標トラブルを未然に防ぐという効果が期待されています。さらには、地域名の付いた地酒や地元の焼酎・ワイン・ビールなどが登録商標となり全国的に有名になれば、その地域のイメージアップにもなり、観光客が増加する波及効果も期待できます。
すなわち、産地名の審査基準明確化は地域経済の活性化につながるというわけです。実際に、地酒や地ビールをきっかけに産地を訪れる人も年々増加しており、この傾向は今後もしばらく続くと予想されています。
今回の特許庁の措置はアルコール飲料に限定されてはいますが、今後は菓子類など他の食品類やそれ以外の分野の商品にも波及していくと考えられます。これまで地道に各地域に密着した商品を作り続け一定以上の評価を受けた商品に商標登録という独占権が付与されることは、地域社会に脚光があたるという喜ばしい状況が生まれることでしょう。
時代の必然とはいえ、これまで大企業に有利と批判があった商標制度が、地域の利益に目を向けた現象として、今回の特許庁の判断は社会的にも大変有意義といえるのではないでしょうか。